新世代!名作ボクシングWEBTOON 「ザ・ボクサー」
ボクシング漫画では「あしたのジョー」、「ZERO」、「はじめの一歩」、映画では「キッズリターン」と名作が数多くあります今回紹介する「ザ・ボクサー」はそのどれとも似ていない新たなボクシング作品の名作だと思います。
WEBTOON作品を語る時に技術に焦点を当てるのは比較的簡単です。コマ割りや構図等が特徴的であればそれが作品の面白さを支えている要素だと指摘しやすいからです。この「ザ・ボクサー」にも特徴的な表現や演出が無いわけではありません
コマ割りに関しては制作時に独自に定義している基本的な4パターンのコマの形を応用しており変則的なコマの形はあまり多用していません。線画に関しては基本的にかなり細めに描かれています。戦闘シーン等でキャラクターがかなり引きの構図で描かれる事もありますが表情迄細かく描写されています。
キャラクターのデザインには「ワンピース」の尾田栄一郎さんやオノナツメさん等日本の漫画家の影響も見られます。格闘作品ですが立体感のある写実的表現と言うよりは平面でデザイン的な印象の表現でバトルが描かれます。
この作品の最大の魅力は原作・作画どちらも手掛けるJH先生のネーム力です。冒頭、作品で活躍するのは白髪の珀というキャラクターです。天才という設定で出番も多く一話目の表紙にもなっています。しかし本作の主役は結城という暗い目をしたいじめられっ子の少年です。しかも結城が活躍を見せるのは8話以降という物語の構成の仕方で、通常のWEBTOONからするとかなり遅いと言えます。この構成をOKした編集部も凄いですし、主人公の活躍無しで冒頭で8話まで読者を惹きつけるJH先生の力量も凄いと言えます。
珀との一戦以来、結城はセコンドのKと共に様々な強敵と対戦しますが、結城の怪物的な強さには誰も敵わず9冠制覇という偉業を成し遂げます。其々の対戦相手にバックグラウンドがあると言う描写は「はじめの一歩」にも見られますが、本作でも丁寧にその部分が描かれます。スーパーライト級のチャンピオン武田悠斗との戦いではその描写が顕著です。「ザ・ボクサー」ではWEBTOONでは珍しく本編の間に特別編が描かれます。閑話休題的な特別編には作者自らが登場し、創作裏話の様な事も語られます。そこで武田悠斗の回についてしっかりバックグラウンドを書いたからこそその後反響があったと書かれています。それ以降の対戦相手についてより深くドラマが描かれる様になります。
才能と努力、家族や恋人、生と死など結城を中心にして鏡像の様に其々のキャラクター像が浮かび上がります。テーマを掘り下げていく作品の場合、内容が哲学的になり物語が脱線する連載作品も多い中で、本作では最後にきちんと主人公に対する救済のエピソードが用意され、冒頭とラストシーンが繋がる見事な構成になっています。特別編でJH先生が創作に苦悩するシーンなどもあり、葛藤しながらこの作品が美しいラストに繋がった事が分かります。「ザ・ボクサー」はWEBTOONのドラマの表現を広げた作品であり、新しいボクシング作品の名作になったと思います。
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