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SGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定校評価からみる、各学校の「本当の教育力」

SGH(スーパーグローバルハイスクール)という名称を、みなさんは耳にしたことはあるでしょうか。文科省が推進している事業のひとつで、その目的を以下のように設定しています。

高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、もって、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的としています。
〔 SGH専用HP http://www.sghc.jp/ より 〕

平成26年(2014年)度からはじまったこの事業、初年度の指定校だった56校について、5年にわたる事業期間終了後の事後評価が、先日ひっそりと公開されていました。

いつも不思議に思うのは、指定校として選ばれたときにはメディア等でも華々しく取り上げられますし、各校とも学校説明会の資料やパンフレットにドカンと載せて大々的にアピールするのに、終わった後の評価はあまり注目されないよな、、、ってことです。

選ばれることが大事なんじゃなくて、選ばれた後に何を実践して、それがどう評価されたかのほうが100万倍重要じゃないですか??

あなたの考える学校の教育力は、どこから?

「教育力のある学校ってどんな学校なんだろう」

子どもの進路について悩んだことがある親であれば、だれでも一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。

そりゃあやっぱり進学実績のいい学校? 
うーん、それもあるだろうけど、、、本当に?

もし本当に進学実績をひたすらあげたいのであれば、おそらく最も効果的で効率的な方法は、学力の優れた生徒を入試で選抜することです。いわゆる入口偏差値と出口実績を比較すれば、だいたい説明がついてしまいますし、そうした比較をしている教育研究所や塾はたくさんあるので、実際のデータはそちらにおまかせします。

でもそれって、本当に学校の教育力なのでしょうか。
元々ポテンシャルの高い生徒が、場合によっては、学校のほかに受験塾や予備校に通って大学受験を目指す。そして難関とよばれる大学に見事合格したとして、学校の教育が果たした役割はどの程度のものなのでしょう。

うーん、じゃあ、競いあって高めあえる仲間がいる環境
それもまあ、あるかもしれませんね。

でも、これだけ通信技術が発達した世の中で、学校にいかなきゃ仲間がつくれないなんてこと、もうないですよね。やりたいことと一歩踏み出す勇気さえあれば、志を同じにする仲間やコミュニティとすぐにつながることができる。年齢や地域を超えて。

そんな風に、ひとつひとつ考えていくと、手がかりとなるものって実はあまりない。説明会や文化祭にいって雰囲気を肌で感じてみたり、実際に進学した生徒やその親、あるいは卒業生に話を聞いてみたり(n=1)。

そう、
「ぜんぜんわからない、俺たちは雰囲気で学校えらびをやっている。」

事業の評価を重視するワケ

その点、SGHや先進的な理数教育の実施支援を行うSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の事業評価は、学校の教育力を考えるうえでのひとつの端緒を与えてくれます。

指定期間は原則5年。単年度ではなく、長期の取り組みであるため、PDCAサイクルをまわす時間的余裕があり、学校の風土として定着しやすい。

そしてなにより、各分野の専門家で構成された評価会議によって評価基準・区分ごとの評価、および、定性的な講評が出され、一般に公開されるのです。

評価のタイミングは2回。中間評価と事後評価です。中間地点で一度評価されるということは、各校の取り組みに対する客観的なフィードバックとなり、そこからの修正・改善の姿勢をも見て取れます。まさに、学校に対する形成的評価! 

さて、前置きが長くなってしまいましたが、以下、初年度56校についての評価一覧を東日本と西日本にわけてご覧いただきます。表の見方は長くなるので、この記事の一番下にまとめておきますね。

● SGH評価 ~ 東日本編 ~

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● SGH評価 ~ 西日本編 ~

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考察、表にまとめて見えてきたもの

いかがでしょう。感じるポイントは人それぞれかとは思いますが、個人的には以下のようなところに目がいきました。

● 渋谷学園系列の底力
渋谷教育学園幕張は、グローバル教育の推進を大々的に打ち出しながらも、中間評価では屈辱の。しかしながら、研究開発の後半においては、「教科間のつながりを改善し、全学的な取組となるよう推進しようとした」と評価をあげてへランクアップ。フィードバックを活かして見事に修正してきました。
同じ系列の渋谷教育学園渋谷は「5年間の研究開発を通じて、企業・機関の参画、生徒の外部機関から受ける表彰の数、帰国・外国人の受入れ人数が非常に多くなったこと、取組を通じて、グローバルリーダーとして貢献したいという生徒の割合が増えている点などが評価できる」と最大級の評価を得ています。さすがです。
ところで、実はこのSGH、あと2年ほどで事業終了のようなのですが、実質的な後継としてWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアムという事業がすでにはじまっています。
渋谷学園系列の2校が入っているWWLのネットワークには、渋谷教育学園渋谷と同じく中間評価・事後評価でダブルSを獲得した広島女学院も参加しています。力のある学校が連携し、さらにどのような相乗効果が生みだすのか楽しみです。

● 安定感をみせた立命館宇治と広島女学院がグローバル教育のハブに?
両校とも、SGHでは事業期間を通して高い評価を得ていました。
立命館宇治は、海外から受け入れた多数の生徒との異文化が交流する土壌でプロジェクト型の課題解決研究科目を実施している点、そして、意欲のある若手教師がリーダーシップをとり、それを全教職員が支える体制を整えたマネジメント力を評価委員が大絶賛しています。
広島女学院は、自校だけでは専門性が不足する部分を思い切って系列の大学に預け、通常の高校生活では届かないところまで引き揚げる連携協力、そして、事業で得た成果を他校へと広げる協働的なマインドと行動力が評価を高めたようです。
そうした優れた実践を他校も見習おうと考えたからでしょうか、WWLでは他のネットワークからも多く声がかかっているようです。ともに今後のグローバル教育のスタンダードをかたちづくるうえでの旗艦校となりそうな予感がします。

● SGH評価の優劣と進学実績の堅調さは必ずしも相関しない
今春、東大・京大にダブル50名オーバーの合格者を出した西大和や、京大合格者を100名の大台に乗せた北野は、いずれも事後評価が。これは「事業目的はあまり実現されていない」と判断されるかなり厳しめの評価です。生徒は受験のための学習が忙しすぎてSGH活動まで手がまわらなかったのでしょうか。特に北野はWWLでも大阪府教育委員会を管理機関とした大阪公立高校ネットワークの中核を担う立場です。ちょっと心配。

● 学校の看板に偽りあり?
否定するようなかたちになるので、どこの学校かは書きませんが、探究活動で名前を売っていて、メディアにも取り上げられている学校が、意外なほどに低評価なのは気になります。評価委員からの講評も歯切れが悪く、生徒の主体性に丸投げするだけじゃダメなんだぞ?ちゃんと興味関心や意欲を高めるようなしかけづくりをしなきゃダメ!って、まあその通り。匙加減が難しいところですけどね。

さいごに

新型コロナウイルスの猛威によって、世界が急速に閉鎖的な孤立主義・自国主義に傾いています。しかしながら、ウイルスが国境を易々と超えていってしまったように、現代的社会課題は一国の内部だけに留められるものではありません。今後も国際的に協調をはかりながら、より良い世界を志向しようとする動きはなくなることはないでしょう。もう一度、世界が開かれたときに活躍する人材をひとりでも多く輩出できるよう、各校にはさらなる実践で知見をため、広くシェアする先導役になってもらいたいと期待しています。

表の見方

《中間評価の評価基準と区分》 ※英語での略記は勝手につけました
:「優れた取組状況であり、研究開発のねらいの達成が見込まれ、更なる発展が期待される。」
:「これまでの努力を継続することによって、研究開発のねらいの達成が可能と判断される。」
:「これまでの努力を継続することによって、研究開発のねらいのたっせいがおおむね可能と判断されるものの、併せて取組改善の努力も求められる。」
C:「研究開発のねらいを達成するには、助言等を考慮し、一層努力することが必要と判断される。」
D:「このままでは研究開発のねらいを達成することは難しいと思われるので、助言等に留意し、当初計画の変更等の対応が必要と判断される。」
E:「現在までの進捗状況に鑑み、今後の努力を待っても研究開発のねらいの達成は困難であり、スーパーグローバルハイスクールの趣旨及び事業目的に反し、又は沿わないと思われるので、経費の大幅な減額又は指定の解除が適当と判断される。」
《事後評価の評価基準と区分》 ※英語での略記は勝手につけました
S:「事業計画を上回る成果をあげており、事業目的は十分に実現された。」
A:「事業計画通りの成果をあげており、事業目的は実現された。」
B:「事業計画をやや下回っているが、事業目的はある程度実現された。」
C:「事業計画を下回っており、事業目的はあまり実現されていない。」
D:「事業計画を下回っており、事業目的はほとんど実現されていない。」
《WWLについて》
SGHの事実上の後継事業であるWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業において、以下の立場で参加しています。
◎:カリキュラム開発拠点校
△:事業連携校

なお、印が複数の場合は、複数のコンソーシアムに参加していることを意味しています。

WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業がどのような取り組みなのかについては、また別の機会に記事にしようと思っています。

それと、上記の表、さらっとシンプルなつくりにしていますけど、あちこちから情報ひっぱってきて整理して、、となかなか手間がかかっています。「それはそれは、がんばったね!」って思ったら、ぜひ下にある購入ボタンをポチってください。有料ゾーンの先にコンテンツはありませんが、いただいたご支援は新型コロナで息詰まっている引きこもり生活を乗りきるための何かに使わせていただきます(子どもたちのボードゲームを拡張させたり、家の音楽環境をパワーアップしたい!)

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