見出し画像

日常に潜む非日常⑧「グッドバイ 嘘から始まる人生喜劇」

人生はその人が主役の舞台であり、世界は常に誰かの悲劇と喜劇で成り立っている。


「グッドバイ 嘘から始まる人生喜劇(2020)」

「斜陽」「走れメロス」「人間失格」で有名な太宰治の遺作をケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で戯曲化、ヒロインのキヌ子を舞台版でも演じた小池栄子が続投するなど話題になった。
原稿は13話迄書かれていて、一応文庫も発刊されているのだが、執筆途中に太宰が愛人と入水心中したためにそのまま絶筆、未完。これが太宰の遺作となってしまった。
未完の作品をどう映画化するの?展開は?となるけれど太宰の中では大体物語の構想が練られていた。

『彼が描こうとしたものは逆のドン・ファンであつた。十人ほどの女にほれられているみめ麗しき男。これが次々と女に別れて行くのである。グッド・バイ、グッド・バイと。そして最後にはあわれグッド・バイしようなど、露思わなかつた自分の女房に、逆にグッド・バイされてしまうのだ』

舞台は終戦直後。ある文芸雑誌の編集長・田島周二は優柔不断なダメ男である。埼玉に妻子があるにも関わらず何人もの愛人を抱えてしまっていた。
しかしある日、彼は娘から届いた手紙を貰ったことでそんな生き方を改め、愛人たちと別れることを決意する。だが、優柔不断な性格が災いして、なかなか別れを切り出すことが出来ない。
そんな彼に、親友のある作家が提案をする。
『すごい美人を、どこからか見つけて来てね、そのひとに事情を話し、お前の女房という形になってもらって、それを連れて、お前のその女たち一人々々を歴訪する。効果てきめん。女たちは、皆だまって引下る。どうだ、やってみないか』というものだった。


そこで田島は金にがめつい担ぎ屋のキヌ子を偽の妻として雇う。
キヌ子が泥だらけの顔を洗い、化粧をし、ドレスを着ると誰もが振り返るほどの美女になった。
こうして田島は愛人と別れるため、キヌ子は金のために偽夫婦を演じることになる。。。

ちなみに原作は1人目の花屋と別れた所で絶筆になっている。
しかし前述の通りこの後田島は実の妻にも、はたまた違う愛人にも「グッドバイ」と別れを告げられる。

「何がグッドバイだ、流行ってんのか!バカ!」

結局田島は愛人全員と別れられたが、親友のチクリで本妻にも捨てられ娘にも会えなくなってしまった。自暴自棄になった田島だが、道中、声を掛けられたある易者に言い当てられる。一緒になれば幸せになれる相手がいると。しかしそこに田島に不幸が――――。

見所は大泉洋のダメ男っぷりも松重豊の狸親父っぷりもモダンとはまだ程遠い激動の戦後の世界もそうだが、小池栄子の役の入りっぷりが本当に凄い。「戦争に負けたのに男も女もあるか!」と序盤の依頼主に食ってかかるシーンや化粧をして妻になりきるシーンも完全に「キヌ子」だったのだ。
ホロリとさせるシーンもあるが、全体的に見れば笑って観られる そんな映画でした。


余談だが作中では「女に惚れられて死ぬなんて滑稽の極み」と書かれているが、太宰本人はどんな気持ちで愛人と心中したのだろう。恐らく、小説の続きなんてどうでもよかったりなんてして。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?