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【本の紹介#2】社会的インパクト創出をする際の"測定"の重要性

はじめに

企業の中で、ビジネスを通じたポジティブな社会変化、いわゆる「社会的インパクト」を意識する方々が増えております。新聞などの様々なメディアで取り上げられる機会も増えました。こうしたなか、「社会的インパクトについて、きちんと学ぶために読むべき書籍はどれか」と聞かれる機会が多くあります。

今回は、ビジネスを通じた社会的インパクトの創出や、その測定・マネジメントを専門にする私から、社会的インパクトとは何かを学びたくなった方のために、以下の本をお勧めいたします。

社会的インパクトとは何か 社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド(マーク・J・エプスタイン、クリスティ・ユーザス 著/鵜尾雅隆、鴨崎貴泰 監訳/松本裕 訳)

曖昧に使われがちな「社会的インパクト」という言葉

「社会的インパクト」という言葉は、それが指すもののイメージがなんとなく伝わるので、比較的使いやすい言葉です。しかし、サステナビリティの考え方が広まり、SDGsやESGへの取り組みを表明することが企業間で当たり前になってきた現在、「社会的インパクトを創出している」と明言するためには、「良いことをしています」から一歩進めて、「こういう成果が出ています」と具体的に言うことが求められてきています。

この背景には、投資の成果として従来の財務的リターンのみならず、投資が社会にもたらした変化(インパクト)の測定も行う「インパクト投資」という投資手法の広がりもあります。インパクト投資に向き合う金融機関が50社を超え(※)、金融機関たちがインパクトの測定手法について日々研究・議論している昨今、「社会的インパクト」という言葉が指すものが具体化・厳密化しているのです。

そのため、「社会的インパクト」という言葉を用いる際には、その定義や測定の仕方、その言葉にまつわるリスクなどについて、しっかりと理解したうえで用いていただくことが、企業でも求められ始めています。上記にご紹介した書籍は、それを理解するために役立つ良書です。

(※) インパクト志向金融宣言というイニシアティブに枠組みに参加する金融機関数(2023年5月現在)

本書が指摘する、事業の「社会的インパクト」を計測しないリスク

本書の中で私が特に印象的だと感じた箇所は、第7章「測定の基本」のなかの「なぜ測定しようとしないのか」という説の中で、インパクトを測定しようとしないことのリスクを、例を挙げて説明している箇所(166ページ)です。
とても示唆深い件なので、ここに引用させてください。

+++(以下、書籍からの引用)+++

(インパクト測定を試してみようとも思わない)組織は、インパクトを測定しないことによるリスクも考慮するべきだ。アメリカの学生による薬物乱用防止を目標とする「薬物乱用予防教育」(D.A.R.E)プログラムが、このリスクの一例だ。このプログラムは30年前から実施されていて、何百万ドルもが費やされてきた。だが2003年の会計検査院による報告ではプログラムに関する入念な調査レポートが何例も引用され、プログラムの長期的効果に対する証拠が一切ないという事実が判明した。もっと早くにD.A.R.Eの非効率性に気づいていたなら、そこに費やされた時間と資金、そしてその他のリソースは、もっと有効に使われていたかもしれない。
測定がおこなわれなければ、資金や時間、その他のリソースが無駄になるリスクは非常に高い。これまでの努力が少しでも役立っているかどうかを知ろうともせずに投資を続けていると、社会問題に振り向けている資金の効果を最大限に引き出す力が弱まってしまう。それどころか、インパクトを測定しないことによって、助けようとしている対象の人々に害を成す可能性まで生まれるのだ。公表されているある実験によれば、D.A.R.E.プログラムに参加した生徒たちの自尊心が低いことがわかった。彼らが、ほかの避けるべき薬物とひとくくりにされていたアルコールやタバコに手を出していたからかもしれない。

「社会的インパクトとは何か 社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド」(マーク・J・エプスタイン、クリスティ・ユーザス 著/鵜尾雅隆、鴨崎貴泰 監訳/松本裕 訳)

+++(以上、書籍からの引用)+++

いかがでしたでしょうか?
30年間かけて、何億円も費やして、標榜していた社会変化が全く起きていないと指摘されたとき、プログラムに携わっていた方々はどのような気持ちになるでしょうか。想像するだけで恐ろしいことです。

社会的インパクトとその測定方法を体系的に示す本書

社会的インパクトは、パブリックセクター(行政)やソーシャルセクター(NPOなど)の世界では長年最重要の考え方でした。
社会的インパクトをどのように計測するか、評価するかなどは長い年月をかけて蓄積された知見があります。

この本では、以下のような話が掲載されています。

  • 社会的インパクトがどのように生み出されるのか

  • インパクトを検討する際のツール

  • インパクトの測定手法

  • インパクトを大きくするにはどうするか

また、本書では一貫して

  • きちんと自分達の活動により起こしたい変化を論理的に説明すること

  • インパクトを測定すること

  • そのプロセスで活動を進化させる(PDCAをまわす)こと

の重要性を説いています。

当社もインパクトについてはオンラインセミナーなどの機会でご説明差し上げているのですが、時間の制約などもあります。
事業を通じて社会的インパクトを起こそうと決意されている方は、ぜひ本書を読んでインパクトに対する理解を深めていただけたら嬉しいです。

まとめ

今回は、ビジネスを通じたポジティブな社会変化(社会的インパクト)に関心をもつ方々が増え、インパクト投資をめぐる様々な検討を通じてそこで用いられる用語の定義の厳密化がすすむなかで、社会的インパクトという言葉を「なんとなく」語ることが出来なくなってきている現状をご紹介しました。
そのうえで、社会的インパクトについてしっかりと理解するための良書をご紹介しました。
社会的インパクトという言葉は、パブリックセクター(行政)やソーシャルセクター(NPOなど)において長年検討され、磨かれてきた言葉です。
これを機会に、携わられているビジネスや事業の社会的インパクトについてお考えになってみるのはいかがでしょうか。


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