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【後編】雨風太陽様インパクトレポート発行に際して ーIMMの実践と継続ー

「都市と地方をかきまぜる」をミッションに掲げ、事業を通じて都市と地方、人と人を繋げてきた株式会社雨風太陽。2020年より、同社はIMM(インパクト測定・マネジメント)を事業の一部で始め、今回会社全体としてのIMMを実施しインパクトポートの発行を行いました。同社のインパクト経営指標の策定支援を行ったトークンエクスプレス株式会社代表の紺野と、雨風太陽の高橋代表で対談をしました。今回はその後編になります。

前編をまだお読みでない方はこちらから!

■対談者プロフィール
高橋博之(たかはし・ひろゆき)
ポケットマルシェを運営する株式会社 雨風太陽 代表取締役。東北食べる通信創刊編集長。著者に『都市と地方をかきまぜる』。昨年2度目のカンブリア宮殿出演。車座行脚する全国キャラバンは8週目(車座1270回目)。

紺野貴嗣(こんの・たかつぐ)
「インパクトを、企業から」トークンエクスプレス代表取締役。JICAで途上国開発に関わり、その後コンサルを経て創業。2019年よりSIIFと協業しインパクト投資、休眠預金事業に携わる。GSG国内諮問委員会賛同メンバー。


1.インパクトレポートを発行する事で期待する効果

ーーインパクトレポートを発行した事で、社内・社外に期待する変化はありますか?

高橋博之氏(以下、高橋):今回インパクトレポートを出したことの理由の一つでもありますが、まずは社内の方については社員の腹落ち感が違ってくるかなと思っています。前は「本当にやっていることがミッション・ビジョンの実現に繋がっているのか?」と議論に時間を使っていましたが、このレポートを出すことでそこのモヤモヤ感が解消されていくことを期待しています。
主要な経営指標の中に、売上高以外に3つのインパクト指標を加えましたが、これらを追いかけていくことで事業が伸びて会社としても持続可能になるし、「都市と地方をかきまぜる」というミッション・ビジョンの実現にも近づいていくんだという納得感が出てくると、より高いモチベーションで仕事ができるようになるのではないかと考えています。
 
今後、社外への期待としては、インパクトレポートを発行することでより一層多くの人に価値を伝えられれば、仲間、ユーザー、生産者、投資家にもこういう会社だと一層理解してもらうことができ、より長期に渡って使ってもらい、ファンになってもらえるのではないかと期待しています
今までも「ビジネスを通じて社会課題を解決しようとしている」と話し、理念に共感をしてくれた人が集まってきてましたが、そういう人達をより増やすことに繋がると思っています。
 
ミッション・ビジョンを立てて、それに紐づく指標を立てて説得力のある形で会社の方向性を示せるようになることで、社内も社外も納得感をもって前にすすめるようになります。事業の成長性とインパクトと両方を追い求めていくということをインパクトレポートで示せたのは良かった思っています。

2.インパクトスタートアップとインパクト測定・マネジメントとの関係

ーーインパクトスタートアップを始め、社会課題解決を謳う企業が増えています。そのような中、雨風太陽さんのようにインパクト・測定マネジメントを実施される企業はまだ珍しいと思いますが、どう思いますか?

高橋:インパクトスタートアップが増えているのは世の中の流れからして必然だと思ってます。
我々もその一つですが、NPO時代から寄付してもらったり助成金をもったりしながら頑張ってきて、その中でいつもどのように成果が出ているのかを見せるのに苦労してきました。言葉で事象を説明するだけでは納得してもらえないものを、IMMという手段によって客観的に説得力をもって示せるようになりましたが、ここまでに10年かかってます。

そもそもESGもEとGについては客観的な指標として置きやすい数値化がしやすいし、機関投資家にもわかりやすい。Sが育たないのは、この成熟した社会の中では誰の目にも客観的な社会課題はないからだと思っています。取り残された課題はあるが、それは「僕ら、こういう暮らししたいよね」という主観的なものだと思ってます。例えば、「都市と地方が分断されてるって問題だよね」と我々は言っていても、「そうですか?」という人もいる。都会にこれだけ人が溢れていて、田舎に人がいないのは僕は不自然で、健全でもなく、持続可能ではないと思っている。でもこの感覚は極めて主観的、アート思考的だと思う。でもそれでもいいと思っている。だから社会起業したんだから。「俺はこの社会課題を解決したい」という意思で始まっている。主観なんですよね。あとはそれに「そうだね、それって社会課題だね」と賛同してくれる人が集まってきて、会社ができて、株主になってくれる人も出てきた。なので独自の指標を置けばいいと言うところに最後はたどり着いた。それが「みんな」に伝わる必要はない、という腹のくくり方です。「みんな」に伝わる指標は置けない。腹くくって割り切ってしまう。それでも独自の指標を客観的に示すというのがインパクトスタートアップがIMMを実施するという事だと思ってます。

紺野貴嗣氏(以下、紺野):私がJICAを経て起業をした時に感じたギャップはそこです。JICAには途上国開発というものが焦点にあって、そこには先進国の人が「それは問題だね」と全員が共感をする課題が存在していて、それを国連などが「これは課題である」と定義して、SDGsなどはまさにその典型。
でも博之さんが仰ったように今の豊かな日本ではそうではない。「自分にとってはこれは課題だ」と立てることが大事。IMMにはロジックモデルにより「なぜこれが課題だと思うのか」というのをしっかりと示していくという役割もあるので、コミュニケーションの手段としても博之さんのような方を支えるツールになるというところを見出せたと思っています。

3.IMMを実施する企業は今後どのように増えていくのか

ーー雨風太陽様のようなIMMを会社全体として実施する企業はこれから増えていくのでしょうか。

紺野:今回の雨風太陽さんのインパクトレポートを見て、実際に自社でもやってみようと思う企業さんは多いと思います。インパクトスタートアップ中心になると思いますが、大企業でもインパクトの考え方およびインパクトの発信について感心が強まっていて、実際に弊社にも問い合わせが増えています
 
大企業の中でも大きく2つに分かれていて、一つは事業部、もう一つはサステナビリティ推進部などのコーポレートサイド
事業部の人達は、自分達の事業が社会にどのように貢献をしているのか、成果を示す必要があり、日本は社会課題先進国なのでそこにコミットしていると言わなければならない。インパクト創出している事を開示していくニーズが高まっているように感じます。
コーポレートの方では投資家をはじめとする方々からのリクワイアメントとしてサステナビリティに関するものすごい量のデータを出すようになってきています。その一方で大企業は社会的価値を創出している事業などけっこうあり、そういう情報も見渡してみたらたくさんあるが、サステナビリティレポートの中ではコラム扱いになっていることが多いのが現状です。それを言葉で説明だけではない形で出していきたいと言う部分にIMMの需要があると感じています。
 
大企業の方からIMMの導入についてのご相談に乗る際、フォーマットや指標がどこかから決められてものを持ってくると思っている人が多いのですが、そうでなくてもいいのだなと、雨風太陽様のインパクトレポートが参考になるのではないかと思っています。

4.インパクトスタートアップが「社会課題解決」の担い手になる時代

ーー企業が社会変化に関するレポートを出すということについて、日本社会全体にひいて考えた場合どのように感じられますか。

高橋:岸田政権も「新しい資本主義」を掲げて、その一丁目一番地がスタートアップ強化支援だと言い始めています。その背景は、社会課題解決を成長のエンジンにして、行政だけではなくて民間も一緒になって社会課題を解決してくれというメッセージだと思ってます。そういう時代がきている。僕は時代背景が大事だと思ってます。
 
明治維新の前、産業革命以前は生存・生活に必要な条件を整える事をみんな主体的にやっていたんです。ところが近代国家が始まってから、スペインの哲学者のオルテガが「大衆の反逆」という本の中で「生の国有化」と言う概念を示していて、それが世界で進行したんです。つまり、生きる事を国家に委ね、自分達は納税者として働いて税を納めれば、福祉・教育を含めて地域の課題解決も国や自治体がやってくれる。だから後はとにかく会社に行って働いて税金を納めればいい国民だ、というのが近代国家。そうすると社会的自発性が国家に吸収されていく。自分達で解決しようではなく、役所がやってくれる。当時はそれが合理的で、生存生活に必要な状況を整えるための最短の道だったと思う。だけど結果、一億総観客社会になり、グランドの上では一部の役所の人達だけがプレイする状態になった。しかしそこから国も首が回らなくなってきて、2000年代に入り三位一体の改革と言って「これからは地方の時代ですから地方のみなさん自立してくださいね」となった。とはいえ地方自治体も急に「住民のみなさん、これからは住民自治の時代ですよ。観客席からグランドに降りてください」と言われても、しばらくみんなやっていないからわからなくなってます。
 
転換点になったのは阪神大震災。ボランティア元年と言われ、その3年後くらいに国会でNPO法案も通ってます。自分達もグランドに降りて、教育や福祉もニーズが多様化しているんだから自分達もプレイヤーになって高めていこうという人が一部グランドに降り始めた。国や自治体だけに頼らず、課題を解決していこうというのは無理。これまでのように「税金納めたんだから国や自治体がどうにかしてくれ」ではなく、民間が出てきて「インパクトスタートアップに投資するからこの課題を解決してくれ」というのがどんどん出てきてもいいと思ってます
 
つまり国有化された「生」の奪還であり、国もそれを求めている。それを令和の大”生”奉還と僕は言っている。今回の「セイ」は、政治の「政」じゃなくて、「生」。フランスの哲学者のフーコーが「生権力」という言葉を使ってるんですけど、権力の在り方って、明治維新前は「いう事を聞かなかったら殺す」。それで権力を誇示してきたんですけど、明治維新以降は人々の「生」に積極的に介入していく事で集団を効率的に統治してきた。その「生権力」から解放されていくって事だと思ってます。
僕は、生きるリアリティの喪失が現代社会の大きな問題の一つだと思っているんですけど、自分達がもう一度暮らしの主役の座に座り直して、自分達でよりよい暮らしや人生を自ら作っていくって、楽しいことだと思っている。それをやっていくってことが、今の日本でインパクトスタートアップをやっていこうという事と重なると思ってます。

ーー貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

聞き手・文/成瀬真由(トークンエクスプレス株式会社)

【編集後記】雨風太陽様に見るこれからの企業に必要な事、そしてIMMの可能性の広がり

今回の対談を通し、これからの企業に必要なものは、「事業が目指すインパクト(理想の社会像)を示し、そのインパクトを創出するためのロジックを示し、ステークホルダーを巻込み、インパクトを確実に創出していくこと」なのではないかと感じました。
 
雨風太陽様はとてもユニークな企業ですが、企業においてインパクト測定・マネジメント(IMM)を導入する事で起きる以下の変化は普遍的なものではないかと思われます。

  •  ロジックモデルにより目指す社会像(ビジョン)と社会変化(インパクト)の実現までの道筋を整理することで新しい事業の姿が創出されること

  • ロジックモデルの策定、インパクト指標の設定により「この指標を追いかければ事業も伸び、ビジョンの実現にも近づくという両輪が可能になる」と社員の納得感が醸成されること

  • インパクトレポートによるインパクト開示により、同社に関わるステークホルダー(生産者・ユーザー・株主など)にも腹落ち感が波及すること

  • 一連のロジックから指標までのインパクト開示により他社でもインパクト創出の再現性が生まれること 

雨風太陽様は、経営の芯から社会にポジティブな変化を起こそうとする企業です。
今回の記事が、ビジネスで社会変化を起こそうとするあらゆる企業の方に少しでもお役に立てば嬉しく存じます。
〔成瀬〕


雨風太陽様のインパクトレポートや、関連するニュースはこちらから確認いただけます。
▼インパクトレポート
230902_インパクトレポート_雨風太陽 | PPT (slideshare.net)
▼「関係人口とインパクト」ページ
https://ame-kaze-taiyo.jp/impact/
▼プレスリリースhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000162.000046526.html


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