縺れ

 「ねぇ、本当に行くの?」
 女が男の腕を掴んで言う。
 「そりゃ、行くさ。俺、都市伝説はあまり信じないからな」
 そう言うと、二人は夜の学校のトイレに入る。至ってどこにでもあるようなトイレ。二人の目的は花子さん。花子さんは言わずもがな、誰もが知っている都市伝説。今夜、その年伝説を確かめようと、二人の学生が夜の学校を訪れていた。
 男が個室をコンコン、と戸を鳴らし、扉を開ける。奥の個室までは誰もいないことを確認んし、とうとうその一番奥の個室前までやってくる。
 二人は胸の轟きを感じながら、男は二回ノックをする。
 恐る恐る、戸を開ける。
 そこにいたのは、血を流し倒れていた女性がいたーー。
 
 パトカーのサイレン音が夜の校舎を響かせる中、二人の刑事が現場に到着していた。二人は三階に上がり、現場となっている女子トイレの中へ入る。
 「状況は?」
 楠谷が近くの捜査員に訊ねる。
 「被害者は身元を確認できるものを持っていたのですぐに判明しました。名前は西歌織さん。何者かによって刃物で心臓を一刺しされた可能性があります。被害者には所々強く掴まれたところがあるため、被害者が抵抗した可能性があります」
 「そうか」
 捜査員が頭を下げ、どこか消える。
 二人は被害者の前で手を合わせる。
 「特にこれと言った特徴はありませんね」
 隣の鴻ノ池が言う。
 「ああ。抵抗した痕があるから、誰かが被害者を襲ったかもな」
 「でも、何でトイレなんでしょうかね」
 「確かにな」
 二人が考えていると、さっきまで状況を確認していた捜査員が戻ってくる。
 「この学校の近くで、被害者の姿が目撃されております」
 「そうか」
 そう言うと、楠谷は現場を後にする。鴻ノ池もその後を追う。
 
 「この襲っている人物こそが犯人だとみて良いだろう」
 楠谷は防犯カメラの映像を見ながら言う。
 被害者が映っていた場所は、マンション前だった。管理人に許可を取り、二人は被害者の死亡推定時刻の前後を見ていた。被害者を襲った人物は黒ずくめだったが、顔がばっちりと映っていた。
 「これで、逮捕できますね」
 「ああ」
 二人はマンションを出て、車に乗り込む。鴻ノ池がエンジンを掛け、車を発進させようとすると、何かがドスンとあたり、鈍い音が車内に響き渡る。
 「待ってろ」
 そう言うと、楠谷は車から降りる。
 そこに映っていたのは、マンションで見ていた姿と同じ人が血を流し倒れていた。
 
 二人は警察署の屋上に来ていた。
 二人が車に乗り込み、発進した直後に轢かれた人が被疑者ということが分かった。事件は迷宮入りとなり、被疑者死亡と言う形で事件の幕が下りた。
 「どうして、あの男は被害者を殺したんでしょうね」
 「さぁな。死人に口はないから、分からんよ」
 「あ、でも」
 「何だ?」
 「被害者の女性って、被疑者と交際関係を持っていたような」
 「どうした?何か閃いたのか?」
 楠谷が鴻ノ池を見ながら言う。
 「・・・・・・いえ、ちょっと閃いただけです」
 「何だ、言ってみろ」
 鴻ノ池が少しの間、黙る。
 「あれは、交際関係の縺れだと思います」
 「なるほど。その根拠は?」
 「ありません。ただ、私の勘が」
 「刑事の勘って、やつ?」
 「それもありますけど、今回は女性の勘ってものかな。それがある気がします」
 「ふーん」
 楠谷は缶コーヒーを啜り、立ち上がる。
 「じゃあ、俺は戻っているからな」
 そう言うと、彼は扉を開けて建物の中へ戻っていった。

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