第5話「違いました」

 「連れてきました」
 
 そう言い、私とカエサルはあの男を連れてアイウスの元へ来ていた。
 
 「そうか」
 
 彼はいつも通り、天の声みたく言うと、突如として私たちの後ろに現れる。
 
 「もお~、その登場の仕方、驚くんだけど。何とかならないの?」
 
 「残念だが、それはできない」
 
 「あっそう」
 
 「ところで、“歴史上の特異点”となる人物はどこだ?」
 
 「この人です」
 
 そう言い、私は男をアイウスに突き出す。
 
 「・・・・・・違うな」
 
 「えっ」
 
 「いやだって、私が見た“歴史上の特異点”となる人物とは異なるし」
 
 (え、見てんの? それなら早く言えよ)
 
 内心アイウスに対し悪態をついていると、カエサルが話し出す。
 
 「そうか・・・・・・。じゃあ、この男を元の場所に戻して旅を再開させよう・・・・・・ってあれ?」
 
 そう言うと、あの男が消えていた。
 
 私たちが周囲を見渡すと、アイウスは「あの男か? それなら私が食べたぞ」と言う。
 
 「え?」
 
 (食べるの? この人、人間を)

 「何その、驚いた顔」
 
 「何そのって。そりゃ、人間を食べたら普通驚くでしょ」
 
 「ふふ」
 
 「え? なんで笑った?」
 
 「ごめんごめん。まだ話してなかったね。実は、僕は人間を捕食する種族なんだよ」
 
 (まさかのカニバリズムだー‼)
 
 内心驚いていると、彼はこう続ける。
 
 「だから、間違えて違う人をここに連れてきた場合、その人は食べられる運命にあるのさ」
 
 「それ・・・・・・、早く言って下さいよ」
 
 内心呆れかえっていると、カエサルが「とにかく、見つければいいだろ? じゃ、行こうぜ」と話しかける。
 
 「うん。じゃ、またね。おじさん」
 
 「誰がおじさんじゃ‼」
 
 アイウスの抗議を無視しつつ、元の入り口ーー鏡に入ろうとした瞬間、アイウスが「ちょっと待て」と声のトーンを低くして言う。
 
 「・・・・・・お前、どこかで見たことがあるな」
 
 彼はカエサルに近づき、顔をじっくりと見る。
 
 「さ、さぁ。何の事か、分からないな」
 
 (カエサル・・・・・・。汗が凄く出ているけど、大丈夫なのかな)
 
 そう思いながら、この緊迫した状況を見ていると、「うーん。気のせいか」とアイウスが引き下がる。
 
 「じゃ、行ってくるね」
 
 そう言い、私たちは鏡の中へ入った。
 
 そして、その背中を見たアイウスは、こう呟いた。
 
 「ーー彼か」

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