不審火

 「これで四回目だよ」
 楠谷が少し苛立ちながら言う。その横には鴻ノ池が立っていた。
 
 二人が目にした光景とは、黒焦げになっていた自転車だった。
 二人が遭遇した件も含め、四回不審火の案件が舞い込んでいる。その四件とも共通していることとして、盗難届が出されている自転車が燃えていた。目撃者は多数いるが、どれも有益な証言は得られなかった。
 
 「誰だよ、こんなことをしてるのは」
 「そうですね・・・・・・。あっ」
 「どうした?」
 楠谷が鴻ノ池を見る。彼女は電柱に括り付けられていた防犯カメラを見る。
 「あの防犯カメラって、映ってますかね」
 「分からん。とりあえず、連絡をしてみよう」
 そう言うと、楠谷が携帯を取り出して捜査員に連絡をいれる。
 
 二人は現場を後にして、警視庁に戻っていた。
 四階へと上がり、楠谷が連絡を入れた捜査員と合流し、そこで現場の映像を確認する。そこに映っていたのは、一人の男だった。顔もばっちり映っていたことから、二人はその男を警視庁に呼び出すことにした。
 「どうして、自転車を燃やしたりしたの?」
 鴻ノ池が言う。
 「いや、だって・・・・・・」
 「だって?」
 「四件とも燃やされた自転車、僕の物だったんだもん」
 「え?」
 二人は思わず呆けた声を出してしまう。
 「そ、それだったら、燃やさずに取り返せば良かったじゃないの」
 鴻ノ池が言うと、高校生ぐらいの男性は横に振る。
 「いやだって、既に新しい自転車買って貰ったし、もういらないから燃やしちゃっても大丈夫かな~って」
 「え、えぇ・・・・・・」
 二人はまた呆けた声を出してしまう。
 「とにかく、四件ともたいした被害は出ていないから、すぐに釈放されると思う。ただ、反省はしろよ」
 「分かりました」
 男は肩をすくめる。
 二人は取調室を出て、伸びをする。
 「何だったんですかね、あの理由は」
 「さぁな」
 二人は廊下を歩いて行った。

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