#6君はかわいいお姫様
時折海外企業が海外の現地本社で開催するレセプションに招待されることがある。
今回も関連企業数社と世界の有力者を招いた会に招待されたのを機に「経験を積ませるために」と、秘書課の広報担当の新人と出席することにした。
国内で開催されるものとは違い海外の企業イベントは社交の趣が強い。
海外のドレスコードに従ってタキシードに袖を通して身繕いを済ませる。
それから別室で待機している新人をエスコートするために訪ねると、着慣れぬドレスやアクセサリーに顔をこわばらせている。
それを見てつい顔がにやけた。
こんなに緊張している子でも数年も経てば秘書室長のように動じなくなるのだから、なんとも怖いものだ。
レセプションは大盛況で、久しぶりに顔を合わせる企業のCEOや重役の知人たちと歓談すると時間はあっと言う間に過ぎていった。
ふと気づいてみれば、背後に随伴していたはずの彼女の姿が見えなくなっていた。
(どこに行ったんだ?)
席を外す時には声をかけるようにと念を押していたというのに、アジア人のお嬢さんの姿は見当たらない。
人探し顔の私に海外の知人が「君のところのLittle Princessesなら、向こうでアラブの王子様につかまってたよ」と教えてくれたのでそちらに駆けつけると、彼女はホールの隅で困惑しているところだった。
「あっ、申し訳ありません、社長。先様のお名前を伺うの、忘れてしまいましたっ」
どうやらドバイの王族の一人にナンパされたのを名刺交換ぐらいに思っているらしい。
疑うことなく真顔でそう言う彼女を見て「まだまだ、か」とおかしな溜め息が出た。