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ピーターパンとティンカーベル

ロンドン、ケンジントン公園で乳母車から落ちて孤児になった彼は遂に誰にも見つけられる事はなく歳も取らなくなってしまった。現実的な話をしてしまえば、この時のベビーシッターの責任能力の欠如にはほとほと呆れるのだが。

彼の名前はピーターパン。ネバーランドのロストボーイと呼ばれる子供達の1人だ。そんな彼には優秀な(またはチート級の)相棒がいる。そう、ご存知ティンカーベル。彼女の鱗粉を浴びて信じる心を持てば人は空だって飛ぶ事が出来る。

生後7日目のピーターパンと出会った彼女は彼にとっての母親であり、友人であり、誰よりも互いを理解するパートナーとなった。

ネバーランドとメインランド

魔法と言えば魔法であるし、生理現象、脳の働き、心、魂なんて呼べば途端にそれっぽく感じてしまう。感情というモノはどこから来て何処へ帰って行くのだろう?僕らは浅はかで単純、それでいて思慮深く難解な生き物だから時々混乱してしまう。自分の感情や意識が本当に自分のものなのかさえ分からなくなる。だからネバーランドとメインランドを行ったり来たりしながらそれを確かめる。迷ったりはしないし恐れる事もない。ちゃんと彼女の鱗粉を浴びていれば、それを信じていればどんな事も可能なのだから。

彼女は入り口であり出口

そんなわけで僕はネバーランドに行くのにも、メインランドへ帰って来るのにも彼女が必要なのだ。扉や鍵だと言えば分かりやすいかも知れない。二つの世界の混ざり合う場所に彼女は立っている。だから彼女自身も時々どちら側に自分が立っているのか分からなくなるのだ。だから僕は戸締りをきちんとしなければならない。こちら側とあちら側を確実に分け隔てておくために。

オトナトキドキコドモ

彼女の閃きによってもたらされるその一つ一つはシンプルで合理的だ。言い方を変えれば非常に大人っぽい。人によっては冷たくドライに見えるかも知れない。だがたまに見せる表情にはロストボーイ達のそれと同じものがある。純然たる好奇心や喜びに満ちた顔をする。ワクワクを止められない様子がなんとも愛くるしいのだ。普段の彼女の大人な雰囲気なんて微塵もなくなって何も持たずに全てを持っている少女へと帰化する。僕はそれが堪らなく愛おしい。大人な彼女とのコントラストが何よりも美しいと思う。飾らなくたって彼女はそのままで素敵なのだ。

チクタクワニに追われる彼女

時計の音が無常にも近付いてくる。フック船長の左手を食ったのもヤツだ。彼女はいつもヤツに追われている。フック船長を追っていればいいものを何でわざわざ僕の彼女まで追いかけ回すのだろう?朝も昼も夜もヤツは"早くしろ時間がないぞ"と彼女を追い立てる。だから僕はわざとヤツ自体の存在を曖昧にする。全てを忘れていられて、追われることも無い空間を作る。殺しても死なない時間なら感じなければどうと言うことはない。量子物理学の世界じゃ観測しなければ存在しないのと同じなのだから。

オトナ

僕らはオトナに憧れて、オトナを嘲る。あんな風になりたいとも言うし、あんなヤツにはなりたく無いと心の底から嫌ったりする。そう言う部分では僕らもまたロストボーイ達の仲間なのかも知れない。純粋で透明でまんまるの心を持つ彼女はそんなオトナとコドモの混ざり合う場所で今日も生きる。きっとある人は面妖だと訝しげな顔をするだろうし、またある人は夢ばかり見るなと笑うだろう。しかし彼女はそんな事は意に介さず"あたしはあたしだもん"と誰よりも現実を睨みつけながら夢を見る。

だから僕もその二つの世界の狭間に彼女と共に立って混ざり合うそのカオスをこれでもかと飲み下し、悶え苦しみ、そして笑う。

ほら、また鱗粉をかけてくれよ。
君と2人で空を飛んでいたいんだ。


今日はここまで。
またいつか与太話を。
んじゃまた!!

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