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1人の部屋

昨日染めるはずだった髪を染めた。髪色が暗くなった。少しは大人びて見えるだろうか?彼女は今日もまだ帰らない。早く会いたい。

帰って来たら"似合うね。かっこい"と言ってくれるだろうか。なんて少し期待をしている。邪魔をしてはいけないので連絡はしない。したいのは山々だが。

きっとクタクタで帰ってくる。すぐに布団に潜っていつものように"5分だけ"と言って30分はそのまま動けないでいるだろう。無理に起こすと可哀想なので頭を撫でて側にいる。少しでも疲れが癒やされるのなら何だってする。そうだ手をマッサージしてあげよう。今決めた。今は僕が注ぐ番なのだ。

部屋に転がる音たち

文字を打つ音、冷蔵庫の低い音、ベランダの外で鳴く虫の声。この部屋に僕らでいる時は隠れている音たちが、僕が1人になった途端に部屋に雪崩れ込んでくる。だから僕は余計に彼女がこの部屋にいない事を実感してしまう。

布団に横になる。枕に頭を置いて掛け布団を頭まで被る。2人で寝ている時と同じ衣擦れの音がしているはずなのに音が少し近くで聞こえる気がする。

"好き"

彼女には届かず天井に吸い込まれてしまう。
彼女の香水を手に取って手首に付ける。初めて会った日の匂いがする。余計に寂しくなる。

愛しい孤独

この寂しさを、漠然とした孤独感を僕はなぜ、自ら進んで感じようとしているのか。それはこの寂しさや孤独感が彼女に会った瞬間に愛しさや安堵感に変わる、ある種の麻薬だと知っているからだ。この陰と陽にも似たクッキリとしたコントラストを僕は愛しく思うし、いつまでも大切にしたい。

部屋を暗くして目を閉じて呆れる程彼女の事を考える。幸せだとか楽しかった事だとか一緒に笑った話だとかまずそれを思い浮かべて、その後に来る寂しさや孤独感や不安感を両腕を広げて待つ。そいつを精一杯浴びて、浴びまくってこれでもかと言うほど僕は1人で悶え苦しむ。

だから僕は忙しい。
頭の中を君で満たして、13畳ワンルームで僕は寂しさや孤独感や不安感と掛かり稽古をする。倒れる事は絶対に許されない。そうやってわざと心のど真ん中に擦り傷をたくさん付けておくのだ。彼女が帰って来た時に、彼女と言う僕にとっての薬が良く染み込むように。

日記という名のラブレター

日記なんて絶対に続かない僕が、ちゃんと毎日こうして記事を書けているのは実はこの日記が彼女に向けてのラブレターだからだと思う。声に出して全てを話したって伝わらない事も、文字にすれば案外伝わったりするのかもしれない。そんな事を考えながら僕は毎日これを書く。伝わってる?

いや実は伝わるかどうかは問題ではないのかもしれない。頭の中に記録した彼女を引っ張り出して来てここに書き留めておきたいのだろう。脳の記憶には限りがあるから、事細かな所まで文字に起こして彼女への想いを一つたりとも逃したくはない。

彼女へ向けた想いなのに少しでも溢して、その溢れてしまった部分が伝わらずに消えてくのはあまりにも悲しい事だから。

だから僕は今日も書く。
この部屋で彼女を待つ間、精一杯の寂しさと孤独感と不安感を全身に浴び続けながら。

あと少しできっと会える

2時くらいには帰ると思います。たぶん。

彼女からの連絡があった。あと1時間ちょい。僕はその残された時間でまた戦いを始める。彼女の笑った顔、僕にしたい事を当てられてにんまりとするあの表情、アイスを食べている時の顔、抱きしめた後の視線、少し冷たい指先、形の綺麗な爪、可愛らしい唇、髪の毛の柔らかさ、凛とした鈴のような声、すぐに声が枯れる癖に歌う歌、疲れたら足を引きずる歩き方、ぶらぶらと振り回す腕、キスする時の少し血管が透けて見える瞼、昨日僕が洗った髪、慌てて出ていった彼女の後ろ姿。

お、そろそろ来たか。よし。
かかって来いよ。今日もまた始めよう。


今日はここまで!
またいつか与太話を。
んじゃまた!!

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