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【手ぶくろを買いに】絵本レビュー

新美南吉 作
黒井健  絵
偕成社 日本の童話名作選

謹賀新年 新しい年に願いを込めて。
夭折の作家の名作と 画家黒井健さんの珠玉の一冊

【並べて楽しい絵本の世界】


冷たい雪で牡丹色になった子ぎつねの手を見て、母狐は毛糸の手袋を買ってやろうと思います。その夜、母狐は子狐の片手を人の手にかえ、銅貨をにぎらせ、かならず人間の手のほうをさしだすんだよと、よくよく言いふくめて町へ送り出しました。はたして子狐は、無事、手袋を買うことができるでしょうか。新美南吉がその生涯をかけて追及したテーマ
「生存所属を異にするものの魂の流通共鳴」を今、黒井健が情感豊かな絵を配して、絵本化しました。

表紙解説より

人生で、絵本を再び手にするとき、いつも思うのは、幼い子どもに読み聞かせしている時には気づかなかった作者や画家の思いを、感じることができるのは、自分ひとりで絵本を楽しむことができる今、だからなんだということです。

上の文にあるような
「生存所属を異にするものの魂の流通共鳴」
などは、当時気づいていませんでした。
絵本の世界の登場人物が「動物」であることなど、あたりまえのことで、彼らは自由に言葉を繰り、二本足で歩き、手を使うのですから。


新美南吉の心の中に、今でいう動物愛護というような言葉があったとは思いません。
彼の中には、魂の共通共鳴という感覚だけが研ぎ澄まされて、ただそこに在ったのだろうと感じました。

母狐は、以前人間の手から命からがら逃げだした経験から、人間はとても恐ろしいものだと記憶しています。
手袋を買いにわが子と歩く道の途中で、どうしても前へ進めなくなってしまいます。そして、しかたなく坊やだけをひとりで町まで行かせることにするのです。

恐ろしいことが起こるとわかっていながら、わが子をひとりで行かせることが母親にできるものでしょうか。

ふと私も立ち止まってしまいましたが、とりあえず読み進んでみました。



p.21

子狐は開けた一寸ほどの戸の隙間からこぼれる光の帯にめんくらって、自分の本当の手のほうを差し出してしまいます。

「このお手々にちょうどいい手袋下さい。」

手袋はその子狐の手にちゃんと渡されました。
本物の銅貨と引き換えに。

人間は恐ろしいものでしょうか。
お母さんが言っていたように。

ある窓の下を通りかかると、優しく美しい子守歌をうたう唱声が聞こえてきます。子どもの声も聞こえてきます。

「母ちゃん、こんな寒い夜は、森の子狐は寒い寒いって啼いているでしょうね。」
すると母さんの声が、
「森の子狐もお母さんのお唄をきいて、洞穴の中で眠ろうとしているでしょうね。  

子狐は急にお母さんが恋しくなって飛んで帰ります。
お母さんは、心配しながら坊やが帰ってくるのを、今か今かとふるえながらまっていました。


生存所属を異にするものの魂の流通共鳴が作者のテーマであるならば、ここの場面がこの絵本の重要なところだと思いました。

坊やを抱きしめたお母さん。どうしても踏み出せなくなってしまったお母さんがどんなに、ふるえる心で坊やを待っていたでしょう。

さいごにお母さんはつぶやきます。

ほんとうに人間はいいものかしら。
ほんとうに人間はいいものかしら。

お母さんであった自分にしてみれば、このつぶやきが染みるほどわかります。人間はほんとうにいいものになれるでしょうか。

生存所属を異にするものを魂の底から守り愛して、この地球を生きていけるでしょうか。

新年に新たに願いをこめて、平和と愛とに思いを馳せています。

お読みいただきありがとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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