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ラテンアメリカ映画

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最近になってようやくラテンアメリカ映画の魅力に気付いたので、こまめに更新する予定です。あくまで予定ですが。
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#メキシコ

リラ・アヴィレス『夏の終わりに願うこと』メキシコ、日常を演じようとする家族の悲しみ

大傑作。2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞メキシコ代表。リラ・アヴィレス(Lila Avilés)長編二作目。前作『The Chambermaid』も中々面白かったが、完全に忘れていたので反省。7歳の少女ソルは母親と共に、父トナの誕生パーティを祝うため、祖父の家にやって来た。トナは恐らく末期癌のようで、大人たち全員が"恐らく今回のパーティで最後になるだろう"と認識している。誰もそれを口には出さないが大人たちはピリついていて、家の中の

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『バルド、偽りの記録と一握りの真実』重症化したルベツキ病と成功した芸術家の苦悩

2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ長編七作目。今回のDoPはエマニュエル・ルベツキじゃなくてダリウス・コンジなのだが、コンジに失礼なんじゃないかというくらい似非ルベツキっぽい長回しとか視点の低い映像ばかりで困惑する。キュアロンも『ROMA』でルベツキを使えなかったとき、ルベツキからルベツキムーヴを習得して自分でカメラ回してたので、自分語りはルベツキで、という風潮でもあるんだろうか?荒野を走る男が空を飛ぶ影、出産直後に子宮に戻

Gust Van Den Berghe『Lucifer』丸いフレームから覗き見るルシファーがもたらした混沌

傑作。真ん丸のフレーム。最初に映し出されるのは空を仰ぎ見る魚眼の映像だが、中心に集まった白い雲と外周に追いやられた黒い大地をジッと眺めていると、それは南極大陸のようでもあり、つまり地球を南から覗いているようであり、やがて白んだ真ん丸の画面に現れたのは堕天して地上に降り立ったルシファーだった。覗き穴のような真ん丸のフレームは、地獄へ行く経由地として地上に降り立った元部下を眺める視点を持ち、魚眼映像は全てを見渡す=全知全能としてそれに応えている。しかし、覗き穴は覗き穴として狭い領

ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語

2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。カルロス・レイガダスやアマト・エスカランテといった同時代のメキシコ人監督の作品で編集を務め、夫レイガダスの『われらの時代』では彼の妻役として出演していたナタリア・ロペス・ガヤルドの初監督作品。レイガダスは本作品の共同プロデューサーとして参加しているが、どこかのタイミングで彼とは離婚したらしい(どこにも載ってないがググると元妻と出てくる)。本作品には三人の女性が登場する。一人目のイザベルは物語の主人公で、家族とともにメキシコの田舎にあ

ミシェル・フランコ『Sundown』メキシコ、ただ太陽が眩しかったから…

傑作。2021年ヴェネツィア映画祭コンペ部門出品作品。メキシコはアカプルコのビーチで寛ぐニール、その妹アリスと彼女の二人の子供アレクサとコリン。並んで寝椅子に転がって日光浴を楽しみ、ホテルのレストランでテーブルを囲み、ダイビングショーを観て、仕事をするアリスを諌めるなど、一見仲は良さそうだ。そんな中、ニールとアリスの母親が亡くなったという知らせを受けてロンドンへと急ぐ帰り道、ニールは"ホテルにパスポートを忘れた"として一人アカプルコに残る。しかし、ニールはホテルに戻ることなく

アロンソ・ルイスパラシオス『コップ・ムービー』メキシコシティの警察官についての物語

ベルリン映画祭コンペ部門に選出された一作。"刑事の映画"と題されたメキシコのドキュメンタリーと聞けば、麻薬カルテルとのドンパチやら汚職やらを想像するが、本作品は摩訶不思議な構造で以てそんな幻想を砕いてくる。例えば、冒頭では女性警察官テレサを乗せたパトカーの車載カメラの映像が流れる。彼女が車道を歩いていた男を注意した際に、男はもの凄い剣幕でズボンのポケットに手を伸ばしながらコチラに近付いてくる。ああこりゃ銃撃戦かと思ったら、男はスマホを取り出す。かと思ったら、怪しい車に近付いた