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ラテンアメリカ映画

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最近になってようやくラテンアメリカ映画の魅力に気付いたので、こまめに更新する予定です。あくまで予定ですが。
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#カンヌ映画祭

Margot Benacerraf『Araya』アラヤ半島、塩との生活

カンヌ映画祭コンペ部門に選出された数少ないベネズエラ映画の一つで、同じくコンペに並んだアラン・レネ『ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)』と共に国際批評家連盟賞を受賞した。舞台はベネズエラ北部に位置する不毛の地アラヤ半島。ここでは何も育たない反面、海から得られる塩だけは豊富に存在し、それが金と同等の価値を誇っていた時代に大変重宝された。当時スペイン帝国によって築かれた堅牢な要塞は450年経って放置されたまま、残骸を陽光に晒している。人々は貴重な塩に見向きもしなくなったが、

アピチャッポン・ウィーラセタクン『MEMORIA メモリア』コロンビア、土地と自然の時間と記憶

2021年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。前作『光りの墓』以降、監督は軍事政権下のタイでは映画を作らないと公言していており、本作品は確かにコロンビアを舞台としている。主人公はボゴダで入院する妹を見舞う蘭農家の女性ジェシカである。彼女は自分にしか聴こえない爆発音に悩まされており、身の回りでの不思議な現象に巻き込まれていく。爆発音に関して、知り合いのフアンを通して教え子で音響技師の青年エルナンを紹介してもらい、爆発音を再現してもらうことにする。エルナンはジェシカに自分のバンドを紹

ジョアン・パウロ・ミランダ・マリア『Memory House』記号と比喩に溺れた現代ブラジル批判

真っ白に光り輝く近未来風の工場で、防護服を来た男が穴の空いた自身の手袋を見て慌て始める。彼の名前はクリストバム。古くからこの地に暮らす黒人の老人である。舞台はブラジルの南部らしいが、既に流入したドイツ人のコミュニティが完成しており、元から暮らしていたクリストバムのような有色人種はコミュニティから疎外されているのだ。幾度となく無神経な侵入者たちに蹂躙される彼の家は既にボロボロで、落書きだらけの壁を剥げば壁画が眠っており、そこかしこに土着文化的なアイテムが転がっている。彼と白人た

フェルナンド・トルエバ『あなたと過ごした日に』暗闇を呪うな、小さな灯りをともせ

コロンビアの疫学者で大学教授、そして自由の信奉者だったエクトル・アバド・ゴメスの後半生を、息子の視点で描いた同名小説(息子著)の映画化作品。物語は息子青年時代の1983年から幕を開け、大学教授職を解雇される最後の式典に呼ばれたところから、過去(1971年)を回想し未来(1987年)へと進んでいく。徹底的に子供目線で語られることから、実際の父親の業績や学生たちや他の大人たちとの関わり合いよりも、家族の物語が中心にある。それでも、唯一の息子という点で姉たちの会話の輪に入れない彼が

クレベール・メンドンサ・フィリオ&ジュリアノ・ドネルス『バクラウ 地図から消された村』横暴な権力へのある風刺的な反抗

田舎への未舗装路を爆走するトラックが道端に落ちた木棺を轢き潰す。祖母の葬式のため久しぶりに帰郷するテレサはその衝撃で飛び起きるが、彼女を乗せたトラックは事故現場を一瞥して通り過ぎる。そもそも宇宙空間で星を眺めているファーストカットから地球に降りてきて始まる本作品は、現代のウエスタン(特に『荒野の七人』)でありモダンホラーなのだ。しかも、主人公のように思えたテレサがバカラウの村に到着すると、主人公は村そのものに入れ替わってしまう。どう転んでも奇天烈な映画には変わりない。『Nei