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ラテンアメリカ映画

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最近になってようやくラテンアメリカ映画の魅力に気付いたので、こまめに更新する予定です。あくまで予定ですが。
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2023年9月の記事一覧

クレベール・メンドンサ・フィリオ『Pictures of Ghosts』レシフェと私と映画館の歴史

2024年アカデミー国際長編映画賞ブラジル代表。クレーベル・メンドンサ・フィリオによる最新ドキュメンタリー。レシフェはブラジルの角の先端にある港湾都市であり、フィリオが40年来住んでいる故郷でもある。レシフェ南部のビーチにほど近いアパートに移り住んだ1970年代から、今に至るまでレシフェの街も自身のアパートも様々な表情を見せ、変わり続けてきた。本作品は三部構成で展開される。第一部ではフィリオの自宅があるボア・ビアジェン地区の変遷を辿る。フィリオの母親ジョゼリスは夫と別れて心機

Gastón Solnicki『Kékszakállú』アルゼンチン、少女たちの将来への不安

ガストン・ソルニツキ(Gastón Solnicki)長編劇映画一作目。バルトーク・ベーラ唯一のオペラ作品『青ひげ公の城』に緩く基づいている他、それをフリッツ・ラングがノワールに翻案した『扉の陰の秘密』にも影響を受けているらしい。バルトーク版ではペロー版やメーテルリンク版と異なり、主人公が扉を開けるタイミングで毎回青髭本人が付き添っており、怪物としてではなく一人の人間として青髭を描いている。あまり関連性は見いだせないが、ソルニツキ的に言わせてみれば原作と一致させることには興味

【ネタバレ】パブロ・ラライン『伯爵』チリ、ピノチェトから受け継がれ生き延びる負の遺産

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。パブロ・ラライン長編10作目。チリ軍事政権の独裁者アウグスト・ピノチェトは、実は御年250歳となる吸血鬼だった。フランスの孤児院で育ち、ルイ16世の国軍に入隊するも、フランス革命では王の味方をしなかった。処刑されたマリー・アントワネットに魅せられた彼は、あらゆる革命に反抗するためハイチやロシア、アルジェリアと世界中を回ることとなって100年、今度は王の居ない国で王となるため、1935年にチリに上陸した。そこから先は御存知の通り。