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ベルリン国際映画祭コンペ選出作品たち

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カンヌ映画祭のコンペ制覇にあわせて、ベルリン映画祭のコンペもゆるゆると書いていきます。2020年から始まったエンカウンターズ部門の記事も入れます。
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2021年12月の記事一覧

セリーヌ・シアマ『秘密の森の、その向こう』一つの家二つの時間、小さなお母さんと私

超絶大傑作!2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。今年のベルリン映画祭コンペは例年と少々異なり、中々レベルの高い布陣だった。カンヌ常連の濱口竜介とセリーヌ・シアマのおおよそカンヌっぽくない作品を呼び、ホン・サンスやフリーガウフ・ベネデク、ラドゥ・ジュデといった常連も呼び、開催国枠としてもクオリティを維持できている作品を呼んでいる。審査員も過去金熊受賞者で固めたことで、半分が東欧の監督で占められ、西欧の監督はジャンフランコ・ロージ一人だけだった。俳優賞も性別ではなく主演と

フリーガウフ・ベネデク『Forest: I See You Everywhere』明けない夜、変えられない出来事

大傑作。2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。本作品はフリーガウフの初期長編『Forest』の続編的な立ち位置にある。同作はハンガリー映画学校に入学できなかったフリーガウフが、完全に自主的な作品として製作したもので、顔や手などを超接写で切り取りながら会話を続けていく短編集である。顔すら画角に収まらないほど接写だった前作に比べると、本作品のクローズアップは控えめだが、それでも演者たちの身体は画角に収まりきらず、閉所恐怖症的な張り詰めた空間の中に漂っている。また、カメラは基

ナジ・デーネシュ『Natural Light』ハンガリー、衝突なき行軍のもたらす静かな暴力性

2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。今年は嬉しいことにハンガリー映画が二本もコンペに選出された年だった。片方は既にベテランの域に達したフリーガウフ・ベネデクによる原点回帰的な作品『Forest: I See You Everywhere』、もう片方である本作品は短編ドキュメンタリーなどを製作してきた新人デーネシュ・ナジによる初長編作品である。Závada Pálによる同名小説の映画化作品だが、小説は1930年から20年間の出来事をカバーしているのに対して、本作品は原作