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ベルリン国際映画祭コンペ選出作品たち

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カンヌ映画祭のコンペ制覇にあわせて、ベルリン映画祭のコンペもゆるゆると書いていきます。2020年から始まったエンカウンターズ部門の記事も入れます。
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2021年8月の記事一覧

アリス・ディオップ『私たち』私たちの記録、私たちの記憶

2021年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門作品賞受賞作品。夕暮れ時、郊外の草原で森の縁を見る貴族風の服を着た親子。やがて鹿が一頭現れ、彼らと遠距離の見つめ合いになる。現地人と移民、過去と現在という二つの世界の境界線を探り出す本作品を象徴するかのようだ。本作品はセネガル移民二世の監督が、パリに暮らす移民やその子孫たちの日常風景を切り取り、モザイク状に構成されたそれらの断片から移民たちの過去と現在を垣間見る作品である。映画のアイデアはパリとその近郊地域を南北に貫くRER Bの線

イヴァン・オストゥロホヴスキー『神に仕える者たち』神の下僕、国家の下僕

昨年のベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。一部でパヴェウ・パヴリコフスキ『Cold War』と二部作とか呼ばれており、確かに本作品の3回に1回くらいキマるショットやシンプルで静謐な物語という点でパヴリコフスキ的な要素を感じないこともない。また、閉鎖的環境に国家権力が介入することで停滞した時間を破壊していく様は、DAUシリーズにも似ている。三つともモノクロだし。物語の舞台は1980年のブラチスラヴァにある神学校である。二人の青年ミハルとユライは共産主義的な荒廃から逃れる