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ベルリン国際映画祭コンペ選出作品たち

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カンヌ映画祭のコンペ制覇にあわせて、ベルリン映画祭のコンペもゆるゆると書いていきます。2020年から始まったエンカウンターズ部門の記事も入れます。
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2020年6月の記事一覧

ワン・チュアンアン『Öndög』死体と卵と"生命の循環"

初選出で金熊賞を受賞した『トゥヤーの結婚』以降三作品もベルリン映画祭に作品を送り続けているワン・チュアンアンの監督最新作(七作目)。"人間の目で見える物が必ずしも現実とは限らない"という印象的な文言で始まる本作品は、その言葉を発した猟師らしき男が別の男と二人でバギーに乗って、真夜中のモンゴルの荒野を爆走し、全裸の女性死体を発見するというノワール映画のようなシーンから始まる。しかし、以降この事件について掘り下げられることなく、荒野に放置された遺体を一夜だけ狼から守ることになった

ワン・シャオシュアイ『在りし日の歌』さよなら、我が息子

80年代後半から現代に至るまでの中国の歴史をなぞりながら、同じ日に生まれた少年たちを子供に持つ二組の家族を追った3時間に及ぶ年代記。内容的には昨年フィルメックスで鑑賞したロウ・イエ『シャドウプレイ』に近いところがあり、かつノンリニアに語られるという奇跡に近い類似性を持っていて、"これが中国第六世代の底力か…"などと思ったり思わなかったりした。それにしても双方に検閲がどれくらい入ってるのか知らんが、確実にロウ・イエの方が当局に目を付けられている感じがするくらいめちゃくちゃだった

ジョゼフィン・デッカー『Shirley シャーリイ』世界は女性たちに残酷すぎる

大傑作。創作に行き詰まった小説家シャーリイ・ジャクスンについての物語を、偶然住み込みで働くことになったロージーの目線で描いていく作品で、象徴的な"家"が登場することから、映画自体にジャクスン本人の小説のような趣があるらしい。ジャクスンの伝記モノとして、長編小説二作目「処刑人」を書いた時期を描いており、実際に起こっていた女学生ポーラの失踪事件を基に事件を深堀りする形で小説を展開することで映画を発展させていく構造になっている。すっかり板についてきたエリザベス・モスのパラノイア的演