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世界の(未)公開映画

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東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
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2022年6月の記事一覧

ラヴ・ディアス『West Side Avenue』ここにいるためにアメリカ人となる必要はない

大傑作。ラヴ・ディアス長編四作目。アメリカ、ニュージャージー州の歩道で、フィリピン人の少年ハンゼル・ハラナが射殺された。ラヴ・ディアスらしからぬ深夜の雪深い歩道で幕を開ける本作品は、アメリカを舞台とした5時間の大作であり、キャリア最初期の記念碑的作品と見做されている。脚本家として働いていた時代に偶然招待されて行ったアメリカで、フィリピンでは得られない自由さ、異なる観点、インディペンデント界隈の人々のエネルギーを肌で感じたディアスは、その後数年間アメリカに滞在していたらしい。フ

リューベン・オストルンド『インボランタリー』スウェーデン、仲間がいれば怖くない?

祝パルムドール!リューベン・オストルンド長編二作目。娘の誕生パーティで庭にセットした花火が不発となり、それを覗き込んだ瞬間に父親の顔に直撃するという、いかにもオストルンドな厭らしい長回しが冒頭にあってブチ上がる。物語はそのパーティを含めた5つの物語を交互に語っていく。本作品の最も象徴的な場面は、ある授業風景だろう。一人の生徒が教師の出す二本の棒が描かれた画像を見て、そのどちらが長いかを答えるだけなのだが、残りの生徒は明らかに短い方を"長い"と答えるように決めておく。すると、生

リューベン・オストルンド『The Guitar Mongoloid』世にも奇妙な"生温かいオストルンド"

祝パルムドール!リューベン・オストルンドの長編デビュー作。現実の都市(Göteborg)と酷似した架空の都市イェーテボリ(Jöteborg)を舞台に、人々の不思議な行動を様々な映像で見つめる一作。監視カメラのようなフィックス見下ろし角度でマンション屋上のアンテナを雑に直す女を映したり、隣人のドアスコープから覗いたような広角で"これが最後だ!"と言いながら玄関ドアの鍵を開けたり閉めたりする女を映したり、オーブンの中から酔っ払って自分の頭を瓶で叩く男たちを映したり、"ジークハイル