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世界の(未)公開映画

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東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
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2021年4月の記事一覧

リシャール・デンボ『La Diagonale du fou』チェスと政治の全方位戦争

80年代にアカデミー国際長編映画賞がイカれた選出を繰り返していたことはホセ・ルイス・ガルシ『Volver a empezar』でも述べた通り。本作品は同作と並んで受賞作品の中で日本公開されていないたった二作のうちのもう片方である。私が初めて映画リスト制覇を試みたのが(ありがちだが)アカデミー作品賞で、そこから飛び火してこちらのリストも作成したのが10年前だが、『ファニーとアレクサンデル』を挟んで未公開が並ぶ奇妙さを未だに覚えている。本作品はあからさまにヴィクトール・コルチノイ

ホセ・ルイス・ガルシ『Volver a empezar』あるノーベル賞作家の終活

保守的なアカデミーの他映画祭嫌いによる不思議な選出で毎年飽きもせず界隈をザワつかせる国際長編映画賞だが、特に80年代のイカれっぷり(褒めてます)は凄まじい。全体の出品作品数が今と比べて格段に少ないとはいえ、ノミネートの5本ですらどういう基準で選んでいるか分からない作品が並んでいる。特に受賞作品の中でも日本で公開すらされなかった二作品は海外でも圧倒的不人気を誇り、リスト制覇に狂わされた人くらいしか見ていない。本作品はその一本。原題"Volver a empezar"は"もう一度

パトリシア・マズィ『走り来る男』ローラン兄さんが戻ってきた!

大傑作。ラストのキスシーンだけで満点あげてもいい気がしている。酔っ払って自宅納屋で火事を起こし、結果的に浮浪者を殺してしまった兄弟。罪を被った兄ローランは10年服役し、その間に弟ジェラールは美しい妻アニーと結婚し、可愛らしい娘アンナが生まれ、あの実家で快適な生活を送っていた。そこに服役を終えたローランが帰ってくる。というお話。ジェラールの罪を被ったことを唯一知る獣医ベリノとの怪しい関係性がチラつく中で、故郷に帰還したのに異邦人となった男が、実家だったはずの家の周りを彷徨う精神

フォンス・ラデメーカーズ『The Dance of the Heron』夫を再び振り向かせるために

追悼グンネル・リンドブロム。『かもめの城』の翌年、『Huger』と同年の1966年に製作されたオランダ映画で、リンドブロムも珍しくオランダ語を話している(吹き替えだが)。監督フォンス・ラデメーカーズはポール・ヴァーホーヴェン以前のオランダ映画界を牽引した人物で、1987年に『追想のかなた』でアカデミー外国語映画賞を受賞している。そんな彼がフーゴ・クラウスの同名戯曲を映画化したのが本作品。共演はフランス人俳優ジャン・ドザイーというかなり国際色豊かな配役で、国外配給を意識した作品

Bob Gosse『Niagara, Niagara』ナイアガラ、嗚呼ナイアガラ、ナイアガラ

ヴェネツィア映画祭の女優賞は私の好きな女優が受賞することが多いという妙なジンクスがあり、その例となるのが本作品のロビン・タニーと『The Goddess of 1967』のローズ・バーンである。そして、なぜかその二つには男女のロードムービーという共通点まである。本作品のセスとマーシーは同じ店で万引してたらぶつかったという、食パン咥えた女子高生もびっくりな出会い方をする。精神不安定で暴力的な父親を持ったセス、トゥーレット症候群で様々なチックに悩まされるマーシーは共に孤独で、二人