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アフリカ映画

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自身の映画記事のうち、アフリカ映画に区分されるものをまとめています。ロシア、ハンガリーに比べると競争率は高めですが、頑張ります。
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#アフリカ

アブデラマン・シサコ『Black Tea』広州のアフリカ系移民街に暮らす人々の物語

2024年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アブデラマン・シサコ長編五作目。市役所に集まる人々。彼らは市長による結婚宣言を待つ人々だ。何組かの新郎新婦とその親族たちが待機する中で、主人公のアヤは"この男を伴侶とするか?"という質問に"ノー"と答える。なんとも魅惑的な幕開けだ。すると映画は、いきなり中国は広州にあるアフリカ人が多く住む"チョコレートシティ"と呼ばれる場所へ遷移する。店を開く黒人たちも中国人たちも客として訪れる黒人たちも中国人たちも皆が知り合いで、巡回する二人組の

センベーヌ・ウスマン『Guelwaar』セネガル、父の遺体はどこに消えた?

1992年ヴェネチア映画祭コンペ部門選出作品。センベーヌ・ウスマン長編七作目。題名"ゲルワール"は植民地時代よりも前にセネガルに存在した王朝の名前に由来している。それは同時にピエールという高潔な知識人でカトリックの老人の渾名を指し、彼が亡くなったことをきっかけに映画が幕を開ける。しかし、葬儀をあげようにも安置所から遺体が消えてしまった。空の棺で葬式をする一方で、警察署長と長男バルテルミは遺体を誤配送したイスラム教の村にやって来る。彼らはフランス語の文書が読めなかったので、棺の

センベーヌ・ウスマン『チェド』セネガル、宗教三つ巴抗争と囚われの姫

センベーヌ・ウスマン長編五作目。キャリア初の時代劇。舞台は18世紀くらいだが明言はされず、センベーヌとしては現代まで続く、そしてアフリカ全土で行われている事象として一般化しようとしている。舞台となる王国では三つの勢力がしのぎを削っている。一つ目は伝統を重んじる王国派、二つ目は新興勢力として実験を握ろうとするイスラム教派、三つ目は二人の白人が代表するキリスト教派である。白人たちは権力よりも奴隷や武器を含めた交易に興味があるので、実質的にはニ勢力だが。イスラム教徒を率いる導師によ

センベーヌ・ウスマン『ハラ(不能者)』セネガル、不能の呪いは"西欧への羨望"?

傑作。センベーヌ・ウスマン長編四作目。最高傑作と呼ばれる同名自著の映画化作品。冒頭でラフな服装の黒人たちが中央官庁に押し入り、そこにいたスーツの白人たちを追い出す。曰く、"我等の手で工業や商業、文化をコントロールしよう"。すると、次の場面では追い出された白人たちが同じオフィスに入り、スーツで身を固めた黒人たちにブリーフケースを差し出す。金ピカのおまんじゅうである。つまり、首長が変わっただけで結局は白人たちの傀儡なのだ。さて、そんな汚職と職権乱用に塗れた高級官僚の一人エル・ハジ

センベーヌ・ウスマン『エミタイ』セネガル、ディオラにとって米は神聖なもの

傑作。センベーヌ・ウスマン長編三作目。日本で初めて公開されたセンベーヌ作品(R.I.P.岩波ホール)。二次大戦期のセネガル南部カザマンス地方、宗主国フランスのヴィシー政権は植民地から男たちを強制的に徴兵しており、それはディオラ族の人々にも無関係ではなかった。冒頭では腰丈まである草原の獣道を歩く男が、隠れていた赤い帽子の黒人兵に次々と連れ去られる瞬間が描かれている。このとき携帯していたクワなり自転車なりは子供たちによって回収されて村の中にある木に集められるのだが、物言わぬクワや

センベーヌ・ウスマン『Mandabi』セネガル、絶望的なたらい回しと無限湧き金せびり

センベーヌ・ウスマン長編二作目。監督本人の同名小説の映画化作品で、母国語であるウォロフ語での初監督作。西アフリカ初のアフリカ言語による長編映画らしい。主人公イブラヒムは妻2人子供7人と共にダカールの住宅街に暮らしている絶賛失業中の中年男。そんな彼の下に、パリで働く甥っ子から25000フランの為替が送られてくる。意気揚々と換金しに行くと、身分証明書がないという理由で断られ、警察署に身分証明書を作りに行くと出生証明書を求められ、市役所に出生証明書を作りに行くと生年月日を求められ、

センベーヌ・ウスマン『Black Girl』セネガル、私にとってのフランスは台所とリビング

傑作。センベーヌ・ウスマン初長編であり、サブサハラアフリカで初めて国際的な注目を集めた作品。白人一家の下で働く黒人少女ディアウナの生活を、セネガル時代とフランス時代を交互に描くことで白人の植民地主義/人種差別主義的視線を浮かび上がらせる一作。セネガル時代は一家の乳母として子供たちと遊び、休日は恋人と外出するなんて生活をしていたが、フランスにやって来たら家の中に缶詰にされて家事雑用を押し付けられ、"俺黒人とキスしたことないんだよ~"などと一個人として扱われない生活を送ることにな

ナビル・アユチ『Ali Zaoua; Prince of the Streets』 子どもたちが親友の死を受け入れるまで

親友とアフリカ映画の話で盛り上がったので、私も色々観てみようと思って下半期の目標はロシア映画とハンガリー映画にアフリカ映画を加えることにした。本作品は、フランスで生まれ育ったモロッコ人映画監督ナビル・アユチ(Nabil Ayouch)が最初に有名になった作品である。アユチは1969年4月1日、モロッコ人ムスリムの父とチュニジア系ユダヤ人の母の間にパリで生まれ、サルセルで幼少期を過ごした。パリで三年間映画について学んだ後、広告会社Euro-RSCGで脚本家・監督として働き始める