そしてひとりの始まるゲーム
初めて買った据え置きゲーム機はWiiUだった。それは、ほとんど当てつけで買ったようなものだった。
両親が、というか母親が老後の趣味を計画していた。時々新聞の広告に載っている、カラオケマイクを買おうと。私は言った。なんてコスパが悪いことをしようとしているんだ。それよりはずっと、WiiUを買ってJOYSOUNDのカラオケをやった方がずっといい。なんなら私が貴女の誕生日に買うからそのカラオケマイクは買うなと。
そして私はWiiUを買った。私が20歳になる、家を出る2ヶ月前に。私の家は、なあなあにこそなっていたがずっとゲーム禁止の家で、それを敷いていたのは母で、家を出る寸前に私は母にゲーム機を贈った。
WiiUを買ったのはJoshinでだった。Wiiスポーツクラブが同梱されていた。それとマイク、あとニンテンドープリペイドカードを一枚。それを使って、バーチャルコンソールのMOTHER2を買った。
あるモノを使わない理由もないし、Wiiスポーツクラブで遊んでみた。テニスはなかなか盛り上がった。MOTHER2も起動はしてみたが、母は意味がわからないと投げた。
それから時折実家に帰ると、ほとんど毎回家でカラオケをした。
弟の18歳の誕生日、ということは私の21歳の誕生日のこと。
「弟だけにプレゼントを買うのも不公平だから、サヨにも同じ値段のものを買ってあげる。何が欲しい」と母が言った。
私は考えた。私は貧乏だったが、数万円程度の自由に使える金は持っていた。だからまあ、金で買えるものは別に欲しくはなかった。
私は言った。ならゲームが欲しい。私が好きそうなゲームソフトを、と。
母は断った。そんなこと言われてもわからないから、と。
なら私は本が欲しい。これから生きるために必要な本を。
母は断った。
業を煮やして私は言った。なら私はプレゼントはいらないから、WiiUに入っているMOTHER2を代わりにクリアしてくれと。
それも母は断った。結局母は私に靴を買った。
見解には幅があるとは思うが、私は母とさほどいい関係ではなかった。
それから何年経っただろう。実家に帰ると、母は私にiPadを渡してゲームをしてくれとせがむ。
タイトルは『ツムツム』と『ツムツムランド』。
ご存知ツムツムはディズニーのパズルゲームで、同じものを揃えて消す古典的なタイルマッチングパズルに物理演算とディズニーキャラクターを足したようなゲームだ。ツムツムランドはツムツムシリーズの後発ゲームで、パズルボブルの派生ゲームと言えるだろう。
iPadを購入してから、かなりの期間母はそれらに熱中している。スキを見ては外出先でもプレイしている。なんなら父のスマホにもツムツムをインストールさせて、ハート(スタミナ)を贈ってくれるようせがむくらいだ。新しく手に入ったツムはこんなに派手なスキルがあると、まるで小さな子どもが道で拾った宝物を見せるように見せてくる。
「難しいミッションがあるんだけど、サヨならクリアできるかもしれない」「いいスコアを取ってフレンドのくまきちをギャフンと言わせたい」
そう言って母は私にiPadを押し付ける。私は心の中で苦笑いする。やれやれ、ディズニーってすごいな。ゲーム禁止にしていたのはこの人なのに。
終わるゲームもあれば、始まるゲームもあるのだ。
けれどきっと、世界のどこかであなたを待っているゲームがある。
……ああっ!もうちょっとでミッションクリアだったのに!……え?ルビーで延長?するかバカ!!
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