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エッセイⅡ“彼女”

彼女はとても不思議な人だ。

彼女は僕なんかよりも
遥かにいろいろなものを感じて過ごしている。

いろいろを考え、
いろいろなことを知り、
いろいろと行き来し、
いろいろな人に出会い、
一生懸命に生きていて、
喜怒哀楽も何もかもを
体いっぱいで感じている。

想いも感覚も世界も宇宙も
とにかく目に見えないもの全てと
彼女は共に生きているんだろうと思う。

僕は鈍感だから全くわからないけれど。

そんな彼女はいつだって凛としていて
特別なもののように見える。

そんな彼女の誕生日が近づいて来た。

『欲しいものはある?』

彼女は黙っていた。

『そしたら、どこか遠いところに旅行でも行こう!
 君が行きたいところに連れて行く。』

『そんなの、あなたの時間をもらえるなら
 私はどこだって幸せだと思う。
 だから遠くなくていいの。一緒にいてくれるなら。』

そう言っていた。
それでもしばらく経った後に
『…身につけるものが欲しい』とつぶやいていた。

めずらしかった。
彼女は僕に欲しい物を言ったことはなかったから。

結局、彼女の誕生日は
日付が変わる瞬間からまた日付が変わる瞬間まで
ずっと一緒にいた。そう、ずっと。

なんのことはない。
乾杯して、一緒に寝て、おはようを言って
布団にくるまってぼーっとした。
少しのおかずとパンを持って、
少し離れた公園で焼いて食べた。
芝生の上を走り回ったり寝転がったりしながら
どんな一年にしたいのか聞いたり、
肌寒くなったら近くのカフェに寄ったりした。
夜は温泉に行って岩盤浴を巡って
その後また乾杯した。
帰って楽しかったねって、日付が変わるのを惜しみながら
また一緒に眠りについたのだった。

もちろんプレゼントも渡した。
彼女が初めて欲しがったものだから。

彼女の好きな花がモチーフの
ピンク色の宝石がキラキラした
あまり主張の強くないネックレス。
どんな時でもつけられるような。

彼女はとても驚いていた。
そしてとても嬉しそうにしていた。

『どうして身につけるものが欲しかったの?』

僕は彼女がどう感じているのか気になった。

『いつもあなたを感じていたいからだよ。』

僕にはそれがよくわからない。

『僕は、いつも君に会いたいし、会いに来るし
 呼ばれれば飛んでも来るよ。』

彼女は笑っていた。

『そうだけど、そうじゃないの。』

『独りの時に、私がどう思えるかだから…』

やっぱり僕にはよくわからなかった。

『あなたがくれたこのプレゼントは
 私が今日まで生きてきたことへの金メダルなんだ〜。
 まあ、ピンクだけどね。』

そう言って笑う。

『表彰ってなんか、自信になるじゃん。
 大丈夫って言われてる気がして安心するんだよね。』

『誕生日ってね、
 私をつくりあげてくれた人達に感謝する日なんだ。
 生かされていることに気づく日なの。
 あなたがくれる時間や温度や言葉も私を生かすし
 あなたからのプレゼントにも生かされる。
 独りを寂しく感じる瞬間も、きっと励ましてくれる。
 だから、ありがとう。』

そう言って僕のおでこにキスをくれた。

彼女は凛としているけれど、孤独も知っていた。
もしかしたら気付いていないだけで
寂しい想いもさせているのかもしれない。

無事に誕生日を終えて
隣で寝息をたてる彼女を見つめながら
彼女を取り巻く全てがこれからも彼女を生かしますように、と願った。

そして、ずっと大切にします。と誓って
僕は眠りについたのだった。



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