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小説「On the Moon」8話

ラズとミュードは以前よりたくさんの言葉を交わすようになった。ラズは自分のことを宇宙探索隊二等隊員だと説明し、地球の状況を話した。
「地球はいま海面上昇によって居住可能区域がどんどん狭まっているんだ。そして海面上昇はもう止めることができない。雪山を転がる雪玉のようにどんどん大きく、速さも増して進んでいるんだ。だから僕たち人類は地球外に居住区域を求めるようになった。地球外生命体は友好的なものも稀にあるけれど、非友好的生物がほとんどだ。そういうものと戦って、居住区域を勝ち取るのが僕の仕事だ」
「戦ったこと、あるの?」
「まだないよ。僕はまだ入隊して二年だから危険度が高いところには配属されなかった」
悔しそうに唇を噛み締めるラズをミュードは不思議そうに見た。
「僕は早く居住区域を見つけて、そこで家族と暮らすんだ。僕の生まれた土地は後三年で沈んでしまう予測が立っている。はやくしないと……ノインのためにも」
「だあれ?」
「あぁ、ノインは僕の大切な人だ。将来を約束した仲なんだ……。はやくノインに会いたいな。そのために先に古い小型船で帰らせてもらったのに不時着するんだからついてないよ」
ラズはそこでミュードがあまりにも静かなことに気づいた。
「ミュード?」
ミュードは泣いていた。透明な涙がぽつりと地に落ちた。

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