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小説「On the Moon」15話

大きな衝撃がして、ラズは着陸のためのクッションルームで自分たちの船が海に落ちたことを悟った。昔の船ならいざ知らずラズたちの船は強度が増しており海面に不時着することで分解したりはしなかった。ただ静かに海の底へ底へと沈んでいく。

出口はやはり開かず、閉じ込められた船員たちはそれぞれ思い思いに過ごしていた。どこからもすすり泣きが響いていた。

死の淵にたって、心配なのはノインや家族のことばかりだった。

ノインはあの津波を生き残っただろうか。父や母は無事だろうか。

そういったことを思うたびに針を刺すような痛みは強くなっていく。

ミュードが自分のことを責めているのだとラズはわかった。ラズは痛み続ける胸を押さえながら確実に近づいてくる死を感じていた。

ミュードはぼんやりと佇んでいた。目は失明していたが、ミュードには地球で起こったこともラズに起こったこともわかっていた。

ミュードの体が指先からどんどん朽ちて灰になっていく。

唇が少年の名前の形をかたどったが、音はでなかった。

盲た目から涙がいくつも、いくつも流れて落ちて、そしていつの間にかやんだ。

そのあと、月にはさらさらと風に舞う灰があるだけだった。


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