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小説「On the Moon」13話

ラズは目を開くと見覚えのある大型宇宙船の医務室にいた。動こうとすると右足がズキッと痛んだ。
ラズは混乱していた。さっきまで自分は月にいて、ミュードに動力結晶を壊されたはずが、なぜ、宇宙船の中にいるのか。しかも窓を見ると正常に運行していて少しずつ地球へ近づいている。
その時医務室のドアが開いて人が入ってきた。ラズの同期の隊員だった。
「おお!ラズ気が付いたか!」
「なんで僕はここにいるんだ?」
「どこまで覚えてるんだ? 頭を強く打った可能性もあるからな、俺から説明しよう。
お前は先に小型船で先に地球に帰還しようとしたところ、船のトラブルで月に不時着してたんだ。
見つけた時、酸素はもう切れかけてるし、怪我もしてるし、もう少し遅かったら危なかったよ。本当によかった」
「ミュードは……?月に女性人型の生物がいなかったか?」
「何言ってるんだ?月に住民登録してる生物はいないだろう。現にお前の他にはだれもいなかったぞ」
夢だったのだろうか。あんな鮮明な夢があるだろうか。ラズは困惑した。
「腹、減ってるだろ。何か持ってきてやるよ」
そう言って同期隊員は去っていった。
ふと窓に目をやる。どんどんと近づいてくる地球を見てラズは気持ちが落ち着いてきた。変な夢を見た。夢でよかった。そう思った。
美しき青い生まれ故郷の星を見ながらラズはもうすぐ会える嬉しさから婚約者の名前を呟いた。
「ノイン……」
その瞬間、ラズの胸に激痛が走った。針で刺すような鋭い痛みだった。思わず胸を押さえるが、痛みはおさまらない。
「今日の飯は結構いいぞ……ラズ?どうしたんだよ!」
「ひ、左胸が痛くて……」
「胸が?胸は外傷も骨折もなかったぞ。レントゲン見るかい?」
「いや、それならいいんだ」
「もうすぐ俺たちの地球だ。帰ったら精密検査してもらえよ。ほら、もうすぐ帰れる」
同期隊員が窓を指し示す。そしてバタバタと窓に駆け寄った。
「ど、どうかしたのか?」
ラズが胸の痛みに耐えながら尋ねると一言だけ返ってきた。
「様子がおかしい……」

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