小説「On the Moon」9話
ミュードはなぜ自分が泣いているのか、最初わからなかった。なぜ自分がショックを受けているのかも、どうして胸の奥が苦しいのかも、わからなかった。
でもすぐに気づいた。これまでの日々でラズからの気遣いや優しさが積もってミュードの中で大きな山を成していたことに。それゆえに頭ではわかっていた「いつか去ってしまう」という事実がそれだけ胸を締めつけた。
何も言わずに泣くミュードに、ラズは驚いて
「どうしたんだ?」
「……やなの」
ミュードが言葉を続ける。
「……あなたがここを去ってしまうというのが、悲しくて、わかっていたけど気持ちが苦しくなってしまったの……」
ラズは何と言っていいのかわからなかった。ミュードの涙は止まらない。
「ずっとここにいて。わたしとここにいてよ……」
泣き続けるミュードをラズは思わず抱きしめた。
「……そばにいる。だから泣くな」
ラズはミュードの涙が止まるまでそっと抱きしめていた。
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