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小説「On the Moon」2話

少年は光の中で目を覚ました。はじめ、天国に来たのだと思うくらいまばゆく明るい光の中だった。天国ならきっといるはずの人を探して周りを見回すと、ミュードが寝息を立てて眠っていた。

ぎょっとして少年は身構えたが、自分の腰元に携帯していた小型武器がないのに気が付いた。小型武器だけではなかった。持っていた武器という武器がひとつもなかった。

胸元に手を当てると血はもう出ていなかった。

丸腰の不安から少年はミュードから逃げようと、そっと離れて走りだした。自分の乗って来た小型の宇宙船を探しながら、名前もわからない星をさまよった。

その日は、結局武器も宇宙船も見つけることができず、休むことになった。

岩に腰を下ろして人心地着くと、胸元の傷を確認した。少年は眉をひそめた。傷はそこにはなかった。まるで夢だったかのように傷も傷跡もなく、自分の肌がそこにあるだけだった。傷を受けたとき、確かに痛みがあった。血も流れていた。なぜなのかまったく理解できないまま、とりあえず、少年は動けるという状況があるだけで良しとしようと思った。

それから、ミュードと遭遇せずに宇宙船を見つけ、今いる星から脱出することを当面の目標としようと考えつつ、大地に背を任せた。その時、少年は空に青い星を見つけた。まさかと思ってよく目を凝らす。それはどこからどう見ても、記憶の中にあるままの地球だった。ここは本当に月なのかもしれないと少年は思った。だとしたらあのミュードと名乗った生物は一体何者だろうか。しかし、そんなことが今の状況でわかるはずもなく、少年は早々に考えるのをやめた。それよりもミュードと遭遇したときの対処や、宇宙船の状態について考える。胸元のロケットペンダントを握りしめつつ、考えを巡らせていたら、少年はいつの間にか眠っていた。

それから何日歩いてもどこへいってもその星には何もなかった。自分の宇宙船も見つからなければ、建物や生物とも出会わなかった。


ある日、少年は唐突にもう無理だと思った。何も見つからない。進んでいるのかすらもわからなくなるほど何もない。そういった状況に心が折れた。

その場に倒れこみ、空を見上げる。そこには変わらず地球があった。あと、もう少しのはずなのに、すぐそこにあるとわかるのに手が届かない。帰れない。目を閉じると地球での様々な想い出がよみがえった。

もう会うことは叶わないのか、と地球で自分を待っている人のことを想い、思わず涙した時、声がした。

「もしもし」

飛び起きるとそこにミュードが立っていた。いつからいたのか、どうして場所が分かったのか、驚きと疑問でいっぱいだったが、泣いているのを見られた恥ずかしさから言葉は出てこなかった。少年はぐいっと涙をぬぐった。

「助けてくれ」

自分が発した言葉に少年は自分でも驚いた。でも、一人で何もできない、勝手もわからない今、少年にできるのは頼ることだけだった。

ミュードは微笑んでそれに応えた。

「いいわ」


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