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小説「On the Moon」12話

悲鳴が聞こえてラズは飛び起きた。ミュードの声だ。ラズはすぐさま声のした方向へ走った。

「ミュード!一体なにが……」
「ラズ……。ラズ、どこにいるの……」
ミュードが地面から転びかけながら立ち上がり、虚空に手を彷徨わせる。数歩進んだところでミュードは足元の石ころにつまづいて転んだ。
ミュードの目が潰れているのだと、ラズは理解した。
どうして……と周りを見回すと、そこに粉々に砕けた動力結晶があった。
ラズはミュードの横を抜けて動力結晶に駆け寄った。すでに光を失っており、エネルギー体として使い物にならないのは一目でわかった。
「どうしてこんなことを……。これじゃ地球に帰ることができない。なんで……。ノイン……会いたかった」
「ノイン……? なんでその人の名を呼ぶの?」
ミュードは心の中の重い塊を吐き出すように言葉を吐いた。
「そばにいるって言ってくれたじゃない……。わたしのそばにいるってそういって抱きしめてくれたじゃない!それなのに!
約束を守るつもりも、大切にしてくれる気持ちもないなら、抱きしめたりなんてしないでよ!!!」ミュードが絶叫する。もうなにも写すことができない瞳から涙をこぼしながら。

ラズはその声の悲痛さに思わず目を閉じ耳を塞いだ。

なんの音も聞こえなくなり、そっと目を開けるとラズは宇宙船の中にいた。

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