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ストレスとクリエイティビティの最適な関係とは?


「ヤーキーズ・ドットソンの法則」とクリエイティビティ


ストレスとパフォーマンス(効率)の最適な関係については、1908年に二人の心理学者ロバート・M・ヤーキーズ博士とジョン・D・ドットソン博士がネズミを用いた実験で発見した有名な「ヤーキーズ・ドットソンの法則」という生理心理学の法則があります。

これは、下図に示すように、中程度のストレスがあるとパフォーマンス(効率)が向上するが、ストレスが一定のレベルを超えるとパフォーマンス(効率)が低下してしまうという法則です。つまり、ストレスとパフォーマンス(効率)の間には逆U字の関係が成立するということですね。

「ヤーキーズ・ドットソンの法則」の概念図


では、ストレスとクリエイティビティの関係はどうでしょうか。

アメリカのシラキュース大学経営学部のクリスティン・バイロン博士らは、ストレスとクリエイティビティの関係について、2006年までに発表された76の研究をメタ分析しました。

その結果、次のようなことが明らかになりました。

・ストレスが全くないよりも、適度なストレスがあった方が、クリエイティビティが高まるが、過度なストレスはクリエイティビティを低下させる。つまり、ストレスとクリエイティビティは逆U字の関係で、これは「ヤーキーズ・ドットソンの法則」にも合致しますね。

・ストレスの種類によって、クリエイティビティに与える影響が異なる。自分が状況をコントロールできる時に感じるストレスは、適度であればクリエイティビティを高めてくれるが、自分が状況をコントロールできない時に感じるストレスは、クリエイティビティを低下させる

例えば、人前でプレゼンし、それが他人に評価されるような場面で感じるストレスは、自分次第で状況をコントロールすることができるので、それが適度なストレスであれば、クリエイティビティの向上が期待できます。しかし、自分がどんなに頑張ってもチームのパフォーマンスが上がらず、結果として、自分の頑張りも評価されないような状況で感じるストレスは、それが適度であったとしても、クリエイティビティを低下させてしまいます。


家庭でのストレスが最大の敵!?


次に視点を少し変えてみましょう。仕事でのストレスと家庭でのストレスでは、どちらが職場でのクリエイティビティに悪影響を与えるのでしょうか。

アメリカのミシガン州立大学のリン・ヴァン・ダイン博士らは、お客さんと常に接するサービス業であるヘアスタイリスト195人を対象に調査を行いました。

この調査では、仕事と家庭の両方におけるストレス度合いを質問紙で測定するとともに、普段の仕事場でのセールスパフォーマンス(顧客獲得数)クリエイティビティ(仕事の工夫のことで、上司が評価)を測定しました。

その結果、家庭でのストレスは仕事でのストレスよりも、職場でのクリエイティビティに悪影響を及ぼす可能性があることがわかりました。つまり、家庭でのストレスが高い人ほど、上司の目から見て、その人が(ヘアスタイリストとしての)仕事で発揮するクリエイティビティが低いと評価されたということですね。

一方、セールスパフォーマンスに関しては、仕事のストレスも家庭のストレスも、予想外にポジティブな影響を与えていました。つまり、仕事と家庭のどちらのストレスであっても、ストレスを感じている方が、よりセールスパフォーマンスが高まる関連性が見られたのです。

セールスパフォーマンスは目に見えて成果がわかるので、ストレスを感じていても目の前のことを頑張ることで成果につながったと考えられますが、クリエイティビティは目に見えづらく、また、必ずしも発揮しないといけないわけではないため、家庭で問題を抱えていると、その悪影響をより強く受けてしまう可能性があるということですね。本来、癒しや安らぎを得られるはずの家庭で受けるストレスは、それだけダメージが大きいということかもしれません。


クリエイティビティを支援する職場はストレスが低い!?


ここまでは、「ストレスがクリエイティビティに与える影響」を見てきましたが、最後に、「クリエイティビティがストレスに与える影響」についても見ていきましょう。

職場がクリエイティビティを発揮することを支援していると社員が認識できることは、社員の仕事の満足度やストレスに対して、大きな影響を与えることが、研究で明らかになっています。

アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校のダニエル・ストコルズ博士らは、97人のフルタイム雇用者を対象に、社員が職場でクリエイティビティを支援されていると感じているかどうかと、仕事の満足度、ストレスの関係について、調査を行いました。職場がクリエイティビティを支援していると感じるかどうかは、以下の4つの質問で測定されました。

・職場でのクリエイティブな活動は、どの程度可能ですか?

・職場でクリエイティビティを感じることはどの程度ありますか?

・職場で、あなたのクリエイティビティはどの程度奨励、又は、阻害されますか?

・職場でクリエイティブであることは、あなたにとってどの程度重要ですか?


分析の結果、職場がクリエイティビティを支援していると社員が感じることができるほど、仕事の満足度が高く、ストレスは低いことが明らかになりました。

職場の上司や同僚と良い人間関係を築き、自分のやっている仕事に対して、自分がある程度決定権を有していると、職場がクリエイティビティを支援してくれていると社員が感じることができるようになり、それが、仕事の満足度を高め、仕事のストレスを減らすことにつながるようです。

マネジャーがチームメンバーのクリエイティビティを支援することはもちろん大事ですが、そのことをチームメンバーがきちんと感じ取っているかどうかをチェックすることがとても大事になってきますね。

以上、重要なポイントをまとめると、以下のようになります。


適度なストレスがあった方が、クリエイティビティが高まるが、過度なストレスはクリエイティビティを低下させる

家庭でのストレスは仕事でのストレスよりも、職場でのクリエイティビティに悪影響を及ぼす可能性がある。

・職場がクリエイティビティを支援していると社員が感じることができるほど、仕事の満足度が高く、ストレスは低い。


このように、ストレスとクリエイティビティは密接な相互関係があります。ストレスをうまくコントロールできると、日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)の発揮に繋がるとともに、日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を発揮していると、ストレスの緩和につながることになります。

参考文献:
・Robert M. Yerkes, John D. Dodson, The relation of strength of stimulus to rapidity of habit-formation, Journal of Comparative Neurology and Psychology, Vol.18, Issue.5, pp.459-482, 1908.
・CAFé Investigators, CAFE Steering Committee and Writing Committee, Williams, B., Lacy, P. S., Thom, S. M., Cruickshank, K., ... & O’Rourke, M. (2006). Differential impact of blood pressure–lowering drugs on central aortic pressure and clinical outcomes: principal results of the Conduit Artery Function Evaluation (CAFE) study. Circulation, 113(9), 1213-1225.
・Stokols, D., Clitheroe, C., & Zmuidzinas, M. (2002). Qualities of work environments that promote perceived support for creativity. Creativity Research Journal, 14(2), 137-147.

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