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クリエイティブな人の内面の特徴

クリエイティブな人は判断を急がない


クリエイティビティは主に4種類あり、その中でも、誰もが発揮できる日々の小さなクリエイティビティ「little c」が大事なのですが(詳しくは、「クリエイティビティとメンタルヘルス」をご覧ください)、今回は、専門的な職業の中で発揮する「Pro C」というクリエイティビティに関する研究をベースに、クリエイティブな人の内面の特徴について書きたいと思います。今回、心理学者のブライアン・R・リトル教授の書籍『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義』のクリエイティビティに関する興味深いパート(主に第7章)を参照しています。

専門家のクリエイティビティについて、カリフォルニア大学バークレー校のパーソナリティ・アセスメント・アンド・リサーチ研究所(IPAR)の研究が有名です。この研究でわかったクリエイティブな職業(建築家)の人の内面の特徴を、上述の書籍から3つご紹介します。

まず1つ目の特徴として、クリエイティブな建築家の3分の2は「内向型」でした。これは、一般的な内向型/外向型の比率に比べると、かなり高いものでした。

2つ目の特徴として、情報の解釈に際して、クリエイティブな建築家は、「判断」を急がず、状況を見て、その意味や意義を自由に解釈する「認識」の傾向が強く見られました。

つまり、結論を急がず、時間をかけて本質的な意味を考え、混沌とした状況も苦にならないということですね。

3つ目の特徴として、クリエイティブな建築家は「直感」を大事にする傾向が見られました。「直感」型は一般人では約25%だそうです。それに対して、作家の90%、数学者の91%、科学者の93% 、そして建築家の100%が「直感」型であることがわかりました。「直感」型の人は、目に見える事実以上の可能性を想像することができるので、「直感」型でない人からすると、理解に苦しむことがあります。

クリエイティブな専門家は、このような内面的特徴を有するわけですが、「ミネソタ多面人格目録」という心理検査を使った研究によると、クリエイティブな専門家は、一般の人よりも精神疾患者との類似性が高いことがわかりました。この点について、もう少し詳しくみていきます。


クリエイティブな人の「自我強度」とは


先述の心理学者のブライアン・R・リトル教授によると、精神疾患者とクリエイティブな専門家を区別するのは「自我強度」だそうです。「自我強度」は先述の「ミネソタ多面人格目録」という心理検査の尺度の1つで、このスコアが高い人は、知的で機知に富み、現実的で対立に強い、という特徴が見られるようです。一見すると、この「自我強度」とクリエイティビティがどう関係するか、わかりづらいと思いますので、もう少し説明します。

クリエイティブな専門家と精神疾患者は、身の回りで生じる不必要な情報を排除するための「フィルタリング能力」が低いという共通点があるようです。これは、普通なら排除してしまいそうな些細な情報やアイデアを保持しておくことができるというメリットにもつながる一方で、心が彷徨ってしまうマインドワンダリングの状態になりやすいとも言えます。マインドワンダリングはメンタル不調にもつながりますので、注意が必要です。クリエイティブな専門家と精神疾患者は、このマインドワンダリングの傾向が強いと言えます。

しかし、「自我強度」が高いクリエイティブな専門家は、フィルターをくぐり抜けて入ってくる情報の洪水に圧倒されることなく、知性とワーキングメモリ(作業記憶)を働かせることで、複雑な状況や大量の情報に適応することができます。逆に「自我強度」が低いと、不必要な情報の洪水に流されてしまい、メンタル不調につながるようです。

ちなみに、ワーキングメモリ(作業記憶)とは、情報を一時的に保持しながら、新しい情報を処理したり、別の行動を実施したりする脳の活動のことを指します。例えば、何かのWebサービスにログインする際に、メールで送られてきた認証コードを覚えて、入力する場面などに使われるのがワーキングメモリ(作業記憶)です。

まとめると、クリエイティブな専門家の多くは、「自我強度」の高さから、知性とワーキングメモリ(作業記憶)を働かせることで、情報の洪水や混沌とした状況を乗り越え、クリエイティブな活動に没頭することができるのです。


ワーキングメモリ(作業記憶)が鍵を握る


上述の通り、知性とワーキングメモリ(作業記憶)が、クリエイティビティを発揮する鍵になりますが、ワーキングメモリ(作業記憶)はトレーニングで鍛えることができます

このワーキングメモリが向上すると、感情コントロールが上手くなることが様々な研究で明らかになっており、さらに、不安の低減にも役立つようです。それを示唆する研究を一つご紹介します。

オーストラリアのマッコーリー大学心理学部のガブリエル・C・ベロソ博士らは、日頃からやや不安な感情を抱いている100人の成人を対象に、ワーキングメモリを向上させるトレーニングが、感情制御や不安の低減に有用か、実験を行いました。

実験では、1つのグループは20日間、ワーキングメモリの向上トレーニングを受け、もう1つのグループは何もトレーニングを受けませんでした。トレーニングの内容は、モニターに連続で表示される人の顔(怒り、泣き、叫びなど、様々な表情)や文字(お金、嫌悪、悪魔など、感情を喚起させる単語)に対して、前に表示された顔や文字と同じものが提示されたかどうかを瞬時に判断するというものです。(表示される表情や言葉を見て生じる感情に惑わされずに、冷静に判断するのがポイントです)

結果は、トレーニングを20日間(1回20分)受けたグループは、ワーキングメモリ(作業記憶)が実際に向上し、感情制御のスコアが約8%向上、不安が約15%低減していることがわかりました。

私たちは感情を制御する際、例えば、湧いてきたネガティブな感情を調整しながら、ポジティブな感情への変化をモニタリングする必要があるのですが、この時、脳内で行われる処理が、相反する情報を保持し、モニタリングしながら目標を達成するという処理で、これがワーキングメモリによって実施される処理と共通しているので、ワーキングメモリを鍛えると、感情制御能力も向上するのです。日常できるトレーニングとしては、パズルや脳トレ的なクイズが良いかもしれませんね。

そして、ワーキングメモリが向上することで、情報の洪水に流されることなく、些細な情報やアイデアを保持しておくことができるようになり、さらに感情コントロールによってポジティブな感情を増やし、メンタル不調を回避しながら、クリエイティブになれる可能性が高まります。

今回は、専門家のクリエイティビティに焦点を当てましたが、ワーキングメモリを鍛えると、日々の小さなクリエイティビティ「little c」の向上にも大いに役立ちます

参考文献:
・ブライアン・R・リトル. (2016). 自分の価値を最大にする ハーバードの心理学講義(第7章).大和書房
・Veloso, G. C., & Ty, W. E. G. (2021). The Effects of Emotional Working Memory Training on Trait Anxiety. Frontiers in Psychology, 11, 549623.

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