2023に遭遇した百合・ガールズラブ、或いはそれ以外の備忘録①「作ってあげたい!よもつご飯」

オープニングは主人公・凪子(なぎこ)の亡き恋人マリが湯気のたつ食事を差し出す場面から始まる。おいしいご飯と生前とかわらない姿の恋人。幸せな光景に見えるが、凪子は冒頭からその状況に違和感を覚え焦っている。そう、そのご飯はただの食事ではなくよもつへぐい。食べたら元には戻れない死者の国の食べ物だからだ。

果たして凪はマリのぐいぐいくるすすめに耐えられるのか。

百合でえがかれやすいモチーフに生と死の境がある。そのあわいや機微、儚さが少女性と相似するものとして表現されやすい。死後と死は百合のロジックにおいて採用度が高い。

ただし死を描けるほどそのキャラクターの生を描かれてもいない場合、その儚さと等しくリアリティが損なわれてしまう。その点をクリアした作品は名作足りうるが、背景が悲惨な日常や非日常であるのが従来の定番だ。

その点で「作ってあげたい!よもつご飯」は新鮮で好感がもてる。主人公たちが生きている(た)ことがわかる。死が、貞潔の死や老いの暗喩、成人過程の暗喩として用いられることなく、そのままに、人生があり、死別、離別の表現としてそこにありストーリーに活かされている。自然だ。自然で素直で素朴な「死」の表現に遭遇すること自体が珍しい。

ダイエットしてるからと断ればスムージーを、胃の調子が悪いと延べれば胃薬を出してくるマリ。歯磨きの水すら口に含むか悩む凪。しかし、クリスマスの思い出を語るマリに、凪の心が揺れ始める。

後半は圧巻。死者に備わる善性も、主人公にも感じられる人間性も好感がもてる。

生きている者への同情と愛情が感じられる作品。

ハードルがあるとするなら主人公の職業か。従来の作者の作風の通り、学生同士の恋愛ものでも充分に感じる。ただ主人公が己を是とする生き様がかっこいい。ラストも良い。

「よもつへぐい」というワンアイデアが生きている。「よもつへぐい」を中心にさまざまな百合カップルを読んでもみたいし、その後のエピソードに登場するマリの妹と凪子の物語も読んでみたい。

題:作ってあげたい!よもつご飯 

作者:やとさきはる(敬称略)

掲載:コミックDAYS

URL:https://comic-days.com/episode/4856001361236208105


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