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【全文公開】星空描写からの「日時特定」入門【#FindOurStars vol.1】

この記事は、東京大学恋する小惑星同好会の同人誌『#FindOurStars vol. 1』に寄稿した同名記事のweb再録です。当該同人誌の公開猶予期間が過ぎたため、一部に修正を加えて公開します。

はじめに

TVアニメ『恋する小惑星(以下、恋アス)』では、天文や地質などに関する正確な描写が話題となりました。
2021年5月4日にTV朝日で放送された「東大生ランキング」で恋アスが「勉強になるアニメ」として取り上げられた際も、岩石などの描写がいかに正確であるかが専門家からアピールされていました。

恋アスの随所に登場する星空も例外ではなく、制作の中枢に天文ファンが参加していたり、天文ソフトウェア・天文雑誌を手掛ける「アストロアーツ/星ナビ」が制作協力に加わったりと圧倒的な本気度で再現されています。
放送前からキービジュアルや PV で正確な星空描写が話題となっていたこともあり、筆者は、天文ファン視点から恋アスを考察する記事シリーズを note で各話の放送後数時間のうちに公開してきました。

これらの記事は、ありがたいことに恋アス視聴者の間で話題となり、2021年5月16日までの通算ページビューは最も閲覧数の多い1話で4700PV、全体で19000PVを超えています。

Twitterでよくいただいた反響として、「星空だけから日時特定できるのがすごい」「ガチ勢こわ」のようなものがありました。確かに星空からの日時特定は一見離れ業に見えますが、天文ファンとしてある程度星を見たり写真を撮ったりしていれば、実は難しいことではありません。

本記事では、「星空の描写からどのように日時を割り出すのか」という基本のテクニックをご紹介します。

日時特定の例

まずはイメージを掴んでいただくために、具体例を1つご紹介します。
恋アス第2話では、みら・あお入部直後の新入生歓迎バーベキューと観望会のシーン(図1)がありました。

図1 第2話「河原の天の川」より © Quro・芳文社/星咲高校地学部

画面を見てすぐに分かるのは、夕方であること、そして夕焼けがあるためおそらく西方向を見ているのだろうということです。空には単体の星がちらほらとあるだけに見えますが、画面中央をよく見ると星が集まっている部分があります。
これは、有名な散開星団の「プレアデス星団(すばる、M45)」です。あまりにも有名なので、それなりに星を見た経験がある人なら、形を見ればすばるだと特定できると思います。

また、すばるのすぐ左に明るめの天体があります。この位置には1~2等級の明るい恒星が存在しないことや、この後のシーンで詳しく言及されることなどから、これは火星だと分かります。
後ほど詳しくご紹介するように、火星のような惑星は毎日少しずつ位置が動いていきます。そこで、特定時刻の星空を再現してくれる星図ソフトウェアを使って、2017年4月頃(みら・あおの入部が2017年であることは第1話で判明していました)のプレアデス星団と火星の位置関係を調べていけば、2017年4月22日が最もよく一致することが分かります。

さらに、おうし座の全体が西に沈む前であることを考えると、時刻は18時30分から45分くらいまでの間であることも推測できます。星図ソフトでこのシーンと似たような画角を再現した様子を図2に示します。

図2 2017年4月22日 18時30分ごろの西空(Stellarium 0.19.3より)

なぜ日時特定をするのか?

さて、このような星空からの日時特定をする人は、それほど多くありません(日時特定できるほど星空の正確なアニメ自体が稀なのもありますが)。アニメの星空を分析すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

リアルな場所を舞台としたアニメが放送されると、昨今はほぼ確実に舞台となった場所が判明し、ファンが実際にその場所まで出向く「舞台探訪(聖地巡礼)」が行われます。舞台探訪には、アニメの登場人物が訪れた場所を実際に追体験することで、作品の世界に浸れたりシーンの背景に対する理解が深まったりする利点があります。

日時の特定にも、聖地の特定と似た側面があると考えています。例えばあるシーンから別のシーンの間に1週間が経過していると分かれば、描かれていない期間について想像を深めることが可能でしょう。さらに、キャラクターの誕生日を祝う文化が浸透しているように、シーンの日付が分かればそれに合わせて様々なファン活動を行えるかもしれません。

天文ファンの筆者からは、アニメに登場した星空を追体験する「星空巡礼」を提案したいと思います。例えば恋アスの登場人物が見た天体や縁のある天体を実際に見てみたり(図3)、アニメのシーンと日時を合わせて同じ星空を撮影してみたりすると楽しいのではないでしょうか。
聖地巡礼との合わせ技で、アニメの星空シーンを景色から星空まで完全再現するチャレンジもありかもしれません(日時が限定される分、難しそうですが……)。

図3 2020年10月下旬、2等級台に増光した変光星ミラと木ノ幡みらのツーショット(筆者撮影)。赤色巨星であるミラはオレンジ色に写り、みらのテーマカラーの由来が窺える

天体の位置からの日時特定

星座(恒星)の位置から得られる情報

ここからは、具体的な日時特定の考え方をご紹介します。

空に見えている天体が「日周運動」と「年周運動」によって徐々に動くというのは義務教育でも扱いますので、知っている方も多いことでしょう。
これらのメカニズムは置いておいて地球からの見かけの運動だけを考えると、日周運動では天体が1時間に15度ずつ西へ移動し、年周運動では天体が1か月に約30度ずつ西へ移動します。

したがって、背景の星空に見える星座の種類と位置が分かれば時期が特定できます……と言いたいところですが、恒星の位置だけでは完全な特定ができません。
年周運動による天体の動きが、時間によっては日周運動によってちょうど打ち消されるので、時期が異なっても恒星の位置が同じに見えることがあるためです。
具体例を見てみましょう。図4は、2021年の5月13日1時から8月12日19時まで、1月ごとに時間を2時間ずつ早めながら全天の星空を再現したものです。星座や天の川の位置に注目すると、おおむね同じ位置なのが分かります。

図4 異なる時期で恒星の位置がほぼ一致する例(Stellarium 0.19.3より)

このように、恒星の位置だけを手がかりにしても大まかな季節までしか絞り込めません。そこで、他の情報を組み合わせて判断する必要があります。

例えば、時間帯が何時ごろなのかをシーンから推測すれば、「何月ごろなのか」まで特定ができます。恋アスの場合、メインキャラが高校生ですので、地学部の活動として星を見るシーンはおおむね21時以前の早い時間帯が多くなっていました。つまり、恋アスで出てくる星空シーンなら21時以前の時間帯の星空を中心に検証すればよいわけです。
ただし例外として、第4話でのつくばでの合宿や第11話~第12話のきら星チャレンジでは、宿や天文台に泊まっているのでかなり遅い時間の星空も描写されました。

他の情報を駆使して星座と月日が分かっていれば、逆に星座の高さ(仰角)や角度で時刻を特定できます。
まず、画面に地上が描かれていたら、星座が地平線からどの程度の高さに昇っているかを概算して時刻を割り出せます。地上が確認できない場合は、(画面が水平方向から傾いていないと仮定して)星座の傾き角度から時刻を推定します。

月・惑星の位置から得られる情報

惑星や衛星(月)の位置は、日単位まで絞り込むために極めて重要な情報です。
水星・金星・火星……といった太陽系の惑星、それらの衛星、そして小惑星や彗星などの太陽系天体は、日々その位置が変わっていきます。太陽系天体の動きというのは前述の日周運動・年周運動とはまた別物で、恒星との位置関係自体が変化します(恒星を固定して考えると、太陽系天体だけが移動していきます)。

恋アスの場合は、作中時間が2017年から開始すると明らかにされているため、カット中にある惑星や月の位置から何月何日か絞り込めます。「日時特定の例」の節で挙げた例では、プレアデス星団のすぐ左にある星が火星だと分かったので、2017年4月の火星の位置を調べて2017年4月22日にたどり着けました。

何年の設定なのかはっきりしない場合はどうでしょうか?
例えば、火星は公転周期(太陽の周りを一周する期間)が1.88年で、数年おきに似たような位置へ戻ってきてしまいます(月や水星、金星についても同様です)。全く同じ位置ではないので根気よく調べれば特定できるかもしれませんが、かなり大変な作業になるでしょう。

また、地球より外側にある外惑星には「順行・逆行」という一時的に逆戻りの動きをする現象(惑星のうち、地球軌道より内側にあるものを内惑星、外側にあるものを外惑星と呼びます。地上から見た動きは両者で全く異なります。詳細はネット検索でお調べください)があります。逆行と順行まで考慮すると、外惑星の位置から複数の候補日が出てしまい絞り切れない可能性があります。

木星や土星は火星より公転周期がずいぶん長く(木星11.86年、土星29.53年)、逆行をはさみながら星座から星座へ何年もかけて移動します。
従って、10年単位くらいで作中の年代が推測できていれば、木星や土星がいる星座から何年何月の何日ごろか推測可能です。上述したように外惑星の逆行問題はつきまとうため、作中の季節感など他の情報を加味して絞る必要はあります。
実例として、2019年7月にTVアニメ版恋アスのティザービジュアルが公開されたとき、木星の位置(とキャンプが夏休みという情報)から「2008年8月上旬だろう」と筆者含め数名の天文ファンが考察しています。

なお天王星・海王星はさらに公転周期が長いのですが、暗すぎて目立たないうえ、あまりに動きがゆっくりすぎるので日時特定に活用するのは困難です。

月以外の衛星の位置から得られる情報

木星には、現在知られているだけで79個の衛星があります。そのうち、双眼鏡や小型望遠鏡でも見えるほど明るい4つを「ガリレオ衛星(四大衛星)」と呼びます。これらの衛星は木星の周りを1.77日(イオ)から16.69日(カリスト)までの周期で公転し、木星や他の衛星と重なって見えないこともあります。
第2話の木星を見るシーンでは、望遠鏡の視野内でガニメデ・イオ・カリストの位置が正確に描かれていて、「2017年4月22日の19時頃に木星を見ていた」という細かい時間帯まで特定できました。

天体の位置を調べる方法

日々の惑星や衛星の位置は、どのように調べればいいのでしょうか? 現代では、正確な暦によって惑星や衛星の日々の位置はあらかじめ計算されています。その結果は、『理科年表(国立天文台 編、丸善出版)』や『天文年鑑(天文年鑑編集委員会 編、誠文堂新光社)』などのデータ本や、『月刊天文ガイド(誠文堂新光社)』、『月刊星ナビ(アストロアーツ)』などの天文雑誌に掲載されます。

さらに、最近ではパソコンやスマートフォン向けに多数の星図ソフトが開発されていて、専門知識がなくとも特定日時の星空を簡単に再現できます。
パソコン向けでは、「ステラナビゲータ(有償、アストロアーツ)」「Stellarium(無償、Stellarium development team)」などが代表的です。
スマートフォン向けでは、「Star Walk 2(iOS・Android)」「星座表(iOS・Android)」「スカイ・ガイド(iOSのみ)」「Stellarium Mobile(iOS・Android)」など多数のアプリがあります。

日時特定に使いたい場合、どのソフトでもまず観測場所を設定し、それから日時を指定して絞り込んでいきます。スマホアプリは位置情報から勝手に現在地の星空を表示してくれる場合も多いのですが、観測地が大きくずれれば見える星空が変わってしまうので、場所の設定には注意しましょう。
例えば、第11話(きら星チャレンジ回)では、石垣島と地学部の合宿地(つくば)の星空が両方登場しました。(北半球では)緯度が小さいほど南の星座は高い位置に、北側の星座は低い位置に見えます。石垣島は北緯約24度(つくばは約36度)と低緯度であり、さそり座がかなり高く見えていました。
また、緯度・経度が異なれば日の出・日の入りの時刻も違います。第11話の時期、石垣島ではつくばに対して50分も日の入りが遅れていました。

星の並びから星座を判別する

前節で説明した「星座の高さや傾き」「惑星がどの星座にあるか」といった情報を活用するためには、まず星の並びを見て星座を特定できる必要があります。これには、星座の形をある程度記憶していなければならず、天文ファンとしての「場数」が要求されてきます。
とはいえ筆者も88星座を暗唱したり、夜空を一瞥しただけであらゆる星座を判別したりできるほどのガチ勢ではありません。そんな状態でも、有名で分かりやすい目印を手がかりに星座や恒星を割り出すテクニックをご紹介します。

プラネタリウムなどで星座解説を聞くと、解説の始めの方で「季節の星座を見つけるための目印となる図形」を教えてくれることが多いです。季節ごとでは、「春の大曲線」「夏の大三角(図5 左)」「秋の大四辺形(ペガススの大四辺形)」「冬の大三角(図5 右)」が有名です。
また、北半球で北極星を見つける目印に「北斗七星」または「カシオペヤ座」を使うことも知っている方が多いことでしょう。こういった目印は特に明るい恒星で構成されており、実際の夜空でもアニメの星空でも見つけやすくなっています。
さらには、各目印に属する星座も季節ごとの有名星座なので、形を知っておくと手がかりとして使いやすいです。

図5 (左)夏の大三角 (右)冬の大三角(いずれも筆者撮影)

本節では、なるべく暗記量を減らして星座を判別するテクニックをお伝えしました。
とはいえ、暗記を頑張るよりは実際に星空を見上げ、見え方やサイズ感を体感することが星座を覚える近道だと筆者は考えています。ここまでご紹介した目印は、本物の星空を眺めるための目安にもなります。

天文現象からの日時特定

恋アスでは「星を見ること」が活動目的の1つであるため、登場人物がセリフで天文現象に言及することもよくあります。恋アスで登場した天文現象には、流星群の極大や惑星・月の暦、人工衛星の通過がありました。これらの情報も、日時特定に活かせます。

流星群の極大

恋アスのアニメでは、第2話で4月こと座流星群が、第7話でオリオン座流星群が言及されました。
流星群とは、彗星などの母天体から放出された物質がまとまって地球へ落下することで、一時的に多くの流星がみられる現象です。群ごとに流星が出てくる(ように見える)点である「輻射点(放射点)」が決まっており、流星群の名前は輻射点がある星座の名称をもとに命名されます。

図6 第2話で描かれた4月こと座流星群の群流星 © Quro・芳文社/星咲高校地学部

流星群には数週間にわたる「出現期間」があり、その中でも出現数がピークとなる時点を「極大」といいます。例えば、第2話に登場した4月こと座流星群(図6)は4月22日21時ごろが極大時刻と予報されていました。

極大時刻の予報は過去の観測結果や母天体の軌道を考慮して算出されるものの、あくまで予報ですので実際とずれてしまうこともあります。
とはいえ、セリフとして「今日は◯◯流星群が極大だよ」と言っている場合は予報の方を基準に話しているわけですから、西暦何年の設定なのかさえ分かっていれば一気に日時が分かると思っておいていいでしょう。

惑星のこよみ

「天体の位置からの日時特定」の節では、惑星や月の位置は事前に計算されていることをご説明しました。国立天文台の「ほしぞら情報」ページを見ていると、「2021年5月17日 水星が東方最大離角」「5月24日 土星が留」のような記述がみられます。

これらの用語は惑星の位置を示すもので、内惑星(水星・金星)では「東方最大離角」「西方最大離角」「内合」「外合」が、外惑星では「」「」「」「東矩」「西矩」があります(この用語は、惑星だけでなく準惑星や小惑星などの太陽系小天体でも共通です)。これらの意味についての詳細は国立天文台の解説ページにゆずりますが、内惑星は最大離角のとき、外惑星は衝のときに最も観望しやすくなります。

惑星のこよみは、上の流星群とは違って事前に計算で正確に求まるので、これらが言及されれば日時特定に繋がります。例として、第9話のみら・あおがベランダで会話するシーンに「先週が水星の東方最大離角だった」という会話がありました。2018年3月ごろの水星の東方最大離角は3月16日ですから、このシーンが3月18日からの週のいずれかの日だと判明します。

月・惑星の形状

月は満ち欠け(月齢)が毎日変わり、平均約29.5日で一巡します。恋アスではたびたび月齢がセリフとして言及されたり、望遠鏡で月を観察したりしています。事前に月単位で時期が絞れていれば、日付が特定できるヒントになります。

月と地球の距離は一定ではないため、地球から見た月の大きさは年間で14%変化します(1年で最大の満月は最近「スーパームーン」などと報道されます)。望遠鏡で月を見るシーンで、望遠鏡・接眼レンズのスペックが分かれば月の直径を計算でき、ひいては時期が特定できるかもしれません。
恋アスで直接登場したことはないものの、太陽が月に隠される「日食」や月が地球の影に隠される「月食」は年に数回しかない珍しい現象です。もし描かれれば、一発で日付が分かることでしょう。

内惑星(水星・金星)にも、満ち欠けや大きさの変化があります(恋アス単行本4巻42話で、あおが説明していましたね)。この形は肉眼では分からないものの、観望会で望遠鏡を覗くようなシーンなら特定の一助となるでしょう。
外惑星の中では、土星の環の角度が形状の変化として分かりやすいです。地球に対する土星の環の傾きは土星の公転周期を通して変わり、時には地球に対して環が垂直になって見えなくなる「環の消失」が起きます。直近では、2009年9月4日に環の消失が起きた一方、約7年後の2017年10月17日には環が最も大きく開いて見頃となりました。

人工衛星の通過

地球の軌道上には大量の人工衛星が存在します。人工衛星そのものは発光しないものの、太陽の光を反射して光ります。衛星の多くは月と比べれば地球に近い軌道にあるため、深夜の時間帯にはほとんど見えなくなります。移動速度が速く航空機と見間違えられやすいのですが、点滅していれば航空機、していなければ人工衛星です。

よく話題になる人工衛星の通過といえば、国際宇宙ステーション(ISS)でしょう。ISSは巨大な分明るく見えること、日本人宇宙飛行士が滞在するなど国内での注目度も高いことから、条件のいい場合には時々ニュースにもなります。ISSの通過予報はKIBO宇宙放送局のWebサイト「#きぼうを見よう」で見やすく案内されています。

ISS以外の人工衛星も、ひっきりなしに上空を通過しています。これらの軌道情報はステラナビゲータやStellariumなどの星図ソフトに収録されて再現されるほか、専用のWebサイトでも閲覧できます。
最も有名なのは「Heavens-Above」で、リアルタイムで通過している衛星を表示させる、日付を指定して明るく見えた衛星の一覧を見るといったことができます。天体写真を撮っていると人工衛星が写り込むことはよくあることなので、写ったものが何の衛星か気になったときによく使います。

図7 Heavens-Aboveによる衛星予測結果の例

図7を見ればお分かりのとおり、人工衛星は夕方と明け方には数分おきにバンバン通過していきます。ですから、名称が言及されない限りはアニメの日時特定のヒントにはなりにくいでしょう。また、人工衛星は地表の近くにありますので、観測地点の違いが見える位置に大きく影響する点にも注意が必要です。

「天文警察」にならないために

ここまで星空描写からの日時特定のテクニックを並べてきました。しかし、アニメの星空から日時を割り出すには、そもそも前提としてアニメ側の星空が正確に描かれていなければなりません。星空が背景として描かれるアニメは珍しくありませんが、星空が正確なものは一握りです。
例を挙げると、背景作画へのこだわりに定評のある「ゆるキャン△」シリーズでも、夜のシーンでの星の配置が正確というわけではないようです。

日時の特定をしようとして星空の描写が不正確だと「間違っているじゃないか!」と言いたくなるかもしれません。
しかし、アニメで実際の星空を正確に再現することには、それなりにコストと手間がかかる点を踏まえておきましょう。ストーリー自体に場所や日時の設定がしっかり付いている必要がありますし、恒星や惑星などの位置を調べて方角に合わせて作画しなければなりません。
恋アスをはじめとする、星を見ること自体が主題の作品ならば正確さが求められますが、星空が単に背景として描かれる作品で星の配置にそこまで労力をかけられないのも理解はできます。

さらに言えば、正確さ重視の作品であっても、演出を優先して星空にフィクション的な脚色を加える場合もあります。恋アスでも、細かく方角をチェックしていると、場面によって木ノ幡家のベランダの向きが異なるなどあえて正確な描写から外している点があるようです(Quro・芳文社/星咲高校地学部、恋する小惑星スペシャルブックレット 01、p. 20より)。

このような事情があるため、アニメの星空の間違いをあら探しする「天文警察」行為はほどほどにして、もし星空が実際のものと違ったら日時特定は諦めるくらいのつもりでいるのがよいと筆者は考えています。

終わりに

本記事では、アニメの星空やセリフでの天体への言及を手がかりに、シーンの日時を割り出す様々なテクニックをご紹介しました。様々な天文用語が登場し、覚えるのが大変に思われるかもしれません。

ただ、これらの知識は継続的に星に興味を持って空を見上げていれば自然と身につくものばかりです。筆者も、「天文の知識を頑張って勉強した」ということは決してなく、中学生時代から天文部員として楽しく活動してきた中で星座の形や用語がだんだん分かるようになりました。

恋アスの星空に興味を惹かれたら、ぜひ実際の星空を見上げてみてください。それは星咲高校地学部の面々の活動を追体験することでもあり、天文という奥深い趣味の世界への入口でもあります。

謝辞

本記事の内容に関して、慶應義塾大学 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のmin氏に多くの助言をいただきました。ありがとうございました。

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