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[雑記]京都アニメーション放火殺人事件裁判傍聴レポ

経緯

9月19日に京アニ事件の裁判を傍聴しようと思いたち、京都へ赴きました。あれだけの事件ですし、青葉真司を実際にこの目で見ておきたかったという気持ちがありました。幸い傍聴できましたので、めったにない経験を記録に残しておきたいと思います。

9時から9時半の間に並んでいた人に整理券(リストバンド式)を配り、9時40分くらいに合格発表がありました。9月5日の初日こそ倍率は高く、35の傍聴券に500人程度が殺到したらしいですが、この日はそれほど多くありませんでした。「落選したら京都の近代建築観て帰るかー」と思いながら9時40分に発表を見ると当たっていました。

リストバンド式整理券&傍聴券

入廷

白いリストバンド式整理券と別にオレンジ色の傍聴券を職員の方につけていただき、庁舎の中へ。空港と同じ形式で所持品のX線検査があり、その後しばらくしてから101号大法廷へ。傍聴券に書いてある番号と同じロッカーが用意されており、持ち物(スマホ等含め)はそちらへ入れてから、身体チェックを受けてからやっと法廷へ入れます。

けっこう広い傍聴席は4ブロックくらいに分かれていて、傍聴人は真ん中二つくらいのブロックに座ります。いちばん右とその左ブロックの前方はプレス用になっていて「報道」という腕章をつけた方々が座っていました。最右ブロックの最前列3席はいわゆる「法廷画家」の指定席みたいで、いずれも画板を持った、若い女性二人と年配の男性一人が座っていました。いちばん左のブロックはその時点ではなぜか空いている状態。裁判長はすでに着席しておられました。

テレビ用に開廷前に2分間の映像タイムが用意されており、後方に陣取ったテレビカメラ数台が、夕方のニュースで見るあの法廷映像を撮影していました。「あと30秒です」などとカウントダウンしていくのが面白かったです。
撮影タイムが終わると、裁判員裁判の陪審員の皆さんが入廷してこられます。詳しくはわかりませんが、まず数字の書かれたネックストラップを下げた方々が入廷され、先程空いていた左側ブロックへ座られました。人数は20数名ほど?だったでしょうか。続いて、今度はアルファベットの書かれたネックストラップをかけた方々(こちらも20名?程度)が入廷され、向かって左側の検察席の後ろ側、それと裁判長たちが座っている横長の机がありますね、あれにも座っておられ、裁判長、両側の裁判官、裁判員裁判の陪審員が同列に並んでいるという状態です。

青葉被告の様子

その後、青葉真司被告も入廷してきました。普通の車椅子とは見た目が違う、特別仕様のような車椅子に乗って押してもらっています。警官に近い格好をした3人の方が常に付き添っておられる状態。5メートルくらいの距離で見ましたが、第一印象はとにかく「ガタイがデカい」。183cmくらいあるらしいです。その印象に反して物腰は丁寧というか、弁護人や裁判長、傍聴席へも一礼していたのが確認できました。火傷の跡は左の首付近に確認できますが、顔はそれほど目立った火傷痕があるようには見受けられませんでした。裁判長に正面から向き合う形で法廷の真ん中へ車椅子を置き、左側の検察から質問を受ける、という形で始まりました。

実際に喋っているのを聞いたのは初めてでしたが、見た目のいかつさとは裏腹な細く高い声で、典型的な「オタクの喋り方」。「あっはい」「~でございます」「そうなります」を連発し、かなり早口で淀むことなく喋り続ける、という印象でした。拍子抜けしたというか、あれだけの凶悪事件を起こした被告人の印象とは程遠いと感じました。裁判長もドラマで見るような厳かな雰囲気ではなくて「じゃあね、これから裁判進めていきます。黙秘権がありますから、言いたくないことは言わなくていいですからね」といった極めて普通のトーンで進めておられました。

被告人質問

この日は大賞に応募した小説2篇についての質問が中心でしたが、4人いた検察官のうち、いちばん奥に座った女性の方がほとんどの質問をしておられました。ほとんどはあらかじめ行った警察での取り調べに対する補足質問といった感じで、割と淡々と進んでいきました。青葉被告の作品論や創作上の苦労話を延々と聞かされて、正直「何を聞かされているんだ」状態にはなったのですが、裁判とはこういうものなのだろうと思い、聞いていました。

「闇の存在」「公安による監視」「ナンバーツー」といった青葉被告の妄想上の産物であると言っていい用語に関しても、この時点では突っ込まず、「話を合わせて」検察側の質問も進んでいき、途中青葉被告の発言に明らかな矛盾があっても、その場で追求せず流しているようでした。

青葉被告の受け答えは至ってまともに見えますし、私なんかより論理的にしゃべっていました。仕事も「自分は真面目にやっているのに話しかけられて効率が落ちた、迷惑だった」とか「コンビニで発注作業を一手に任されてきた。やる気のないバイトに腹がたった」と被害者的立ち位置で語るんで「けっこうかわいそうな人かもしれない」と思ったりもしたのですが、実際やってきたことは下着泥棒、コンビニ強盗、傷害事件、自部屋のパソコンを破壊する、壁を蹴って穴を開ける等々、言ってることとやってることのアンビバレントさが気になりました。

被告人の健康状態を配慮して休憩が多く取られており、午前中と午後に25分?くらいの休憩があり、昼休憩は1時間30分くらいだったと記憶しています。最初に述べたようにやりとりは淡々と進んでいたのですが、午後に、奥から三番目に座った女性の検察官が質問しているときに、弁護人の代表と見られる髭を生やした方が「その質問は(罪状認否?)に関わるので」と異議を申し立てる場面があって「これは見たことあるやつ!」と少しグッと来ました。現実はそれほどドラマチックな調子ではなかったですが。

気になった点

その後も粛々と進んでいき、午後4時過ぎに閉廷しました。気になったこととしては、いちばん肝心な動機に関る部分「京アニが小説をパクった」という部分です。これは我々一般の人間から伝えられている情報を見ればもう被告の妄想であることは明らかで、それだけに多くの人が無駄に死んでしまったというやるせなさに襲われる訳ですが、現時点ではこの「パクリが妄想」であることはまったく追求されていませんでした。裁判が進むにつれいずれ追求されるのでしょうが、被告人がその事実を受け入れるのかどうか、甚だ疑問には感じました。

受け答えを見ていた印象では、物事を論理的に考えることはできるし、証拠として「こうですよね」と指摘されたら「そうなります」と潔く認める姿勢もある。けれどパクられたことや「闇の勢力」によって自分が監視されていたり邪魔されたりすることに関しては固く信じていてそれに対してものすごく憤っており、それが覆る可能性は低いように思いました。ですから、いわゆる普通の感覚で言う「謝罪」や「反省」には行き着かないのではないか。

「小説一つで30何人も殺さなければいけないものなのか」という発言があったのですが、これもあくまで(パクリに対する報復としては断固として実行しなければならないが、その規模として36人は)やり過ぎではないかと言っているに過ぎず、事件を起こしたことそのものは仕方ないと考えていると思います。

コロナ以降「ワクチンは政府の陰謀だ」といった「陰謀論」が脚光を浴びるようになりましたが、それ以前からもこういう陰謀論や被害妄想にはまる人は増えているように見受けられます。集団ストーカーや盗聴、電磁波攻撃などを訴える人はネットを通じて交流し、ますます「被害」を確信していく傾向もあるようで、今後もこういう傾向は深まっていくんじゃないかと思います。

当然これらの「被害」を立証することはできませんし、京アニ事件においても「パクられた」という小説の場面は一般的なものですし、掲示板に京アニ社員や女性監督が被告人を攻撃するような書き込みをしていた証拠もありません。しかしあまりにも自意識が強くて「周りから嫉妬され、妨害行為をされるほど自分の能力が高い」と思わないと、現実の自分の惨めさに打ちのめされて精神が崩壊してしまうのかもしれない…などと思ったりもします。本当に何をやっても駄目、という現実ですからね。まあ、これは完全な推測ですが。

いずれにせよ、これから被害妄想を根拠にした犯罪は増える可能性もありますから、この事件の裁判を通じて、被告人がどういった態度を示すのか、その心境がどう変化していくのか、あるいはしないのか、行く末を見守っていきたいと思いました。



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