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マクドでチーズバーガーを買うという出来事をスローモーション化してみた

無性に食べたくなったものを買いに行った。
少なくともその間は、現実の雑念に頭を浪費しなくて済む。

目にしているのは起伏のない単調で無機質な見慣れた光景だ。
若い女性が一方的にまくし立てている恋人への愚痴、大学生風の男性が波打つPCキーボードの打鍵音、疲れたサラリーマンのため息。
それぞれが、ないまぜになって通奏低音のように響き無害なBGMとミックスされ、誇張された電子音をさらに際立たせている。

わたしは今、マクドナルドの店内にいる。

正確にマニュアル通り迎え入れてくれる店員の、無償の笑顔。
この機械的かつ交換可能な匿名的事実の対応により、意識の集中を乱されることなく望みの商品を手に入れることができる。

半ば無意識の状態で、その空間と同化し、商品お渡しの画面と番号札に目配せするという一つの目的にのみ意識を向ける。
昼なのか夜なのかまるで分からなくなるほど青白む照明に視線を送ると、私の番号がスクリーンに映し出された。

マクドナルドへ行き、列へ並び、商品を注文し、待ち、それを受け取るという。5つの中継地点の間に微分的に刻まれる時間の中で、意識と無意識の細切れに震えるトレモロ的時間を、スライスして切除することはできない。
無意味に覚醒していることの切なさを、古代人も感じていたのだろうか。
編集作業で、取るに足らない日常の断片を切り刻んで捨てることなんてできない。だから我々は疲れる。だから覚醒という現実をしばし拒び、また眠りにつき休息を得て、それに飽きたらまた覚醒する。

自宅近くの海で商品を頬張った。パティとチーズの甘みと潮騒の塩分で鼻腔から鼓膜にかけてツンとした悲しみを感じた。
季節が変わろうとしている。
でもこの味はいつでも変わらず中毒を煽り続けてく。

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