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クラゲの住む町

数日前、僕はこの町に引っ越してきた。この町に来てから不可解なことがある。
外にいる人は何故か誰しもがヘルメットをかぶっているのだ。
僕も新居に着いた時に「あなたもしておきなさい」と大家さんに言われた。
理由を聞いたらはぐらかされてしまった。
何か表沙汰にしたくない理由があるのだろうか。

(:]ミ(:]彡(:]ミ(:] 彡

理由は後に分かった。ご近所さんから聞き出したのだ。
この町には、空に大きなクラゲがいるのだという。

「言われてみればいつも浮かんでますね」
「あのクラゲは人の脳みそを食べるのよ。脚で頭を掴んでね、地面に落として。動けなくなったけどまだギリギリ意識のある人間を身体で包み込んで、生きたまま頭蓋骨を溶かすの。そうして人間の脳みそを食べて、どんどん大きくなるの」

本当にそんなクラゲがいるのだろうかと思った。
まるで都市伝説のような話だ。

「帽子じゃいけないんですか?」
「帽子だと風で飛ばされちゃうでしょう。ヘルメットの方が固いから、仮に落とされても頭は守れるわ」
「ふうん」

(:]ミ(:]彡(:]ミ(:] 彡

次の日から、僕はクラゲを観察し始めた。大きさは人間より少し大きいくらい。
昼は色は淡いビンク色と水色、夜は月のような青白い色になる。
目や耳は見たことがない。第一、クラゲに目や耳なんてないだろうけど。
にしても、こんなに美しいクラゲが人の脳みそを食べるなんてほんとなのかな。
…ってヤバっ!もうこんな時間じゃん!明日の朝早いのに…。誰か教えてくれよ!

(:]ミ(:]彡(:]ミ(:] 彡

その日の休日も僕はクラゲを観察していた。
クラゲの色は魅力的で、何度見ても飽きない。

と、クラゲと目が合った。「クラゲって目あったんだ」と思った。
だんだんこちらに近づいてくる。
その時、ご近所さんからあのクラゲの話を聞いたことを思い出した。
不幸なことに窓は開いている。窓を閉め切る寸前にクラゲは入ってきた。

わあ、と声が出る。クラゲが大きな魅惑的な目でこちらを見つめている。
腰が抜けて立てなくなる。ヘルメットは数m後ろの机の上にある。
クラゲが顔の前にいる。クラゲの脚が僕に絡みつく。
叫び声を上げるまでもなく、僕の首はクラゲの脚によって締め付けられる。
身体もクラゲの脚でぐるぐるに縛られている。身動きが取れない。

そのまま外に引き摺り出される。フッと身体が宙に浮かんだ。
と思うと叩き落とされた。身体は解放されたが、息ができない。
意識が遠のいていく。クラゲはゆっくり僕に近づいて、僕を包み込んだ。