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推しが、デビューする。

「僕ら、Aぇ! group、CDデビューします。」
3月16日、京セラドームで、メンバーの口から、私たちにそう教えてくれた。
ファンと、ファンになるかもしれない人だけの前で、そう宣言してくれた。
正直、私は全く予想できていなかった。
かつてないほど張り詰めた空気、ドームを震わすほどの声量を持った人たちが5万人いるとは思えないほどの静寂、嬉しいとも悲しいとも読み取れないメンバーの表情、配信されている事実…。
本当のところを言うと「解散します」と言われる準備をしていたほどだった。
「たった今発表されたツアーがお別れのツアーです、新事務所になるにあたって、今の情勢を考えて、これ以上は活動できないと言われました。」
そう言われる覚悟ができてしまうほど、この半年間、私は、私たちは悲しみに慣れてしまった。
なくなるはずのないもの、変わるはずのないこと、終わるはずのない存在。
全てが、幻だと嘲笑われているかのような半年だった。
デビューのことだって出来るだけ考えないようにしていた。
期待してガッカリするには十分すぎるほど落ち込んできた。

だから、嬉しかった。どうしようもなく、差すはずのない光が降り注いだような、誰かが、真っ暗闇から引っ張り上げてくれたような、そんな感覚だった。
メンバーを見た。嬉しそうで泣きそうだった。
MCの初っ端で晶哉が「Aッ‼︎‼︎‼︎の落ちサビでギュッと集まった時、みんな泣きそうやった」って言ってたけど、あれはファンの前に立てた喜びと同時に「夢が叶う日の幕が上がった瞬間を感じられたから」でもあるんだと後になって気づいた。

「私たちは祝福されている」
歌詞や小説の一節にそんな言い回しがあるけれど、あの日あの瞬間見た光景は、まさにそんな瞬間だった。おめでとうに溢れた瞬間というよりももっと美しくて洗練されていてもう二度と経験することが出来ない神聖な瞬間。

デビューを発表した瞬間、彼らの目に涙がいっぱい溜まっていたのはどうしてだったんだろう、と1日目の帰り道に考えた。
宝石みたいでキラキラしていて本当にきれいだった。でも、デビューを知っていたはずの彼らがどうしてあの場面で泣いたんだろう、と不思議に思う気持ちは残った。
2日目のリチャの挨拶で腑に落ちた。
彼らがデビューを聞かされたのは去年の夏、そこから状況が急変して、デビューどころではなくなって、さらにはメンバーが一人欠けてしまった。
「デビュー」という言葉は、形の見えない幻となってしまった。
それがあの日、あの場所で5万人と画面の向こうの何万人の前で「現実」になったのだろうと思う。
他でもない私たちが、しがないファンの私たちが、彼らの夢を現実に変えることができた。

彼らを応援することしか出来ない私たちが、彼らの運命になんて関与出来ないはずの私たちが、他でもない彼らの夢の一部だったんだと気づいた。

私の推しが、デビューする。
あと2ヶ月。喜びとときめきと、無視できない“色々”を抱えながら、6に見える5を背負って、推しのデビューに立ち会おうとしている。

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