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長時間通勤と睡眠

日本の通勤状況

ほとんどの労働者にとって、通勤は避けられない問題です。COVID-19流行により在宅勤務が普及しつつありますが、総務省統計局の調査によれば日本の民間企業におけるテレワーク実施率は全体で20-30%であり、現在も多くの労働者は通勤をしています。

日本では平均でどれくらい通勤に時間を費やしているのでしょうか。
少し古いデータになりますが、総務省統計局の「平成28年社会生活基本調査」によると、平日の片道通勤時間の平均は、男性が1時間24分,女性が1時間6分となっています。往復では1日2時間以上も通勤に費やしていることになります。

ちなみに、「社会生活基本調査」は令和3年にも行われました。結果は令和4年に公表される予定です。

通勤による健康影響

長い通勤時間は労働者の心身に影響を及ぼす可能性があります。報告されている健康影響には、身体活動量の低下、肥満、高血圧、主観的に評価された精神的健康度の低下などがあります。また、腰痛を含む筋骨格系の痛みも増加するという報告もあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4049576/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22608372/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34466705/

その他に指摘されている健康影響は睡眠時間の減少や睡眠障害です。通勤時間が長くなれば起床時間が早く、就床時間が遅くなりますので当然睡眠時間を削る必要が出てきます。さらに、出社しない土日と比べて起床・就床時間がずれることにより、生活リズムの乱れも発生します。
実際に通勤時間が延長するとどの程度睡眠時間が減るか調べた研究があります。

長時間通勤と睡眠

2010年から2013年にかけて、Hispanic Community Health Study/Study of Latinosという研究に参加したヒスパニック系/ラテン系の労働者で、シフト勤務ではない者を対象とした疫学調査です。彼らには、1日の通勤時間の合計を報告してもらい、さらに手首にアクチグラフィー(時計型の加速度センサーで活動量や睡眠時間を測定する器具)を装着して1週間の客観的な睡眠時間を記録してもらいました。
その結果、通勤時間は睡眠時間と直線的な関係にあり、通勤時間が1時間増えるごとに15分睡眠時間が減少することがわかりました。

また、こちらはスウェーデンのSwedish Longitudinal Occupational Survey of Health(SLOSH)というコホート研究のデータからですが、こちらは労働時間も聴取しており、労働時間によって通勤時間と睡眠の関係が変わるか検討しています。
その結果、1日1時間以上の通勤は、週40時間を超える労働時間と組み合わされた場合、身体活動の低下や睡眠障害を抱える可能性が高まることが示唆されました。こちらの研究では、睡眠はカロリンスカ眠気尺度(Kalrolinska sleepiness scale: KSS)という主観的な尺度を用いています。

このように、長い通勤時間は睡眠時間の減少や睡眠障害と関連することが報告されています。また、物理的に睡眠が制限される以外にも、家族と過ごす時間や余暇が短くなることでストレスを抱え、睡眠が障害される可能性や、通勤中に経験する騒音で睡眠が障害される可能性も指摘されています。
詳細は、下記の文献で議論されています。

健康的な睡眠を保つためには、通勤時間を短縮するような対策は有効かもしれません。全労働者には適応できないかもしれませんが、在宅勤務の導入や住宅手当を増やして職場近くに住めるようにすること、混雑時間帯を避けるために時差出勤を導入することは考えられるでしょう。

今後は、これらの方法で実際に通勤時間が短縮するのか、睡眠が改善されるのかを確かめる実証研究が待たれます。


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