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「睡眠の質」とは何か

最近、「質の良い睡眠」や「質の高い睡眠」という単語をよく目にするようになりました。「睡眠の質」に注目した食品、飲料が発売されているようです。
睡眠に注目されるようになったのは好ましいことかもしれませんが、そもそそも「睡眠の質」は何を意味しているのでしょうか?

実は、「睡眠の質」について確立された定義はまだありません。
主観的指標から関連づけられることもあれば、生体データから得られた客観的指標から関連づけられることもあります。
「睡眠の質」に関連づけられる指標を以下にまとめます。

  1. ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index: PSQI):名前の通り、主観的な睡眠の質を調べるものです。過去1ヶ月間における通常の睡眠の習慣について聴取します。合計点が高いほど睡眠の質が悪いと評価されます。6点以上は睡眠に障害がある群とされます。疫学研究分野でよく使われます。PSQIの一部を用いたりすることもあります。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11166088/

  2. アテネ不眠尺度(Athens Insomnia Scale: AIS):世界保健機関(WHO)が中心になって設立した、「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」が作成した不眠症の判定方法です。過去1カ月間に、少なくとも週3回以上経験した睡眠の状態について聴取します。合計点が高いほど不眠の度合いが高く、6点以上は不眠症とされます。研究では「睡眠の質」として評価されることがあります。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11033374/

  3. OSA 睡眠調査票:中高年・高齢者を対象とした、起床時の睡眠内省を評価する心理尺度です。第1因子「眠気」、第2因子「睡眠の維持」、第3因子「気がかり」、第4因子「統合的睡眠」、第5因子「入眠」の 5因子の構成要素からなります。高得点ほど睡眠感が良いと評価されます。日本で開発されたもので、世界的に使用されているものではないようです。
    https://www.jobs.gr.jp/osa_ma.html

  4. 睡眠効率(Sleep Efficiency):総就寝時間における総睡眠時間の割合(%)です。睡眠制限療法(SRT)という不眠症に対する治療法で用いられる指標です。睡眠日誌に、1日における睡眠の時間について記録する際に計算されます。85%以上が良い睡眠効率とみなされます。
    ここから派生して、ポリソムノグラフィーやウェアラブルデバイス(ActigraphやFitbitなど)で客観的に睡眠を測定したときにも睡眠効率を算出することできます。これが「睡眠の質」と関連づけられることがあります。
    https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.5498

  5. その他: 「起床時のすっきり感」や「熟眠感」など、とくに統一化された指標ではありませんが、主観的な満足度を「睡眠の質」とすることもあります。

このように、「睡眠の質」と関連づけられる指標はさまざまです。その他の睡眠質問紙について言及されることもあれば、ノンレム睡眠・レム睡眠の程度について言及されることもあります。「睡眠の質」についてはさまざまな角度から語れているというのが現状でしょう。AISや睡眠効率については、そもそも「睡眠の質」とは異なるという見方もできます。

また、注意しなければならないことは、まずは睡眠については睡眠時間が重要であるということです。
7時間以上の十分な睡眠を確保した上で、それでも寝付きの悪さや中途覚醒、起床時の不快感などがあれば「睡眠の質」向上を考えても良いとは思います。


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