頼れるメンターとしての書「ガチ産業医presents 産業医のピットフォール」

産業医をやることになった時に、どのように指導を受ければ良いでしょうか?

日本では、医学部卒業後、医師免許取得をして2年の初期研修を経てより専門的な領域を修めたい場合には数年間専門医研修を行うシステムになっています。
専門医研修では、例えば臨床分野では一般社団法人日本専門医機構が定めるプログラムに進むことになります。

https://jmsb.or.jp/

一方、産業医については体系的なトレーニングを積むことが難しいです(一応、社会医学系専門医というものはありますが)。
産業医は孤独な仕事です。なぜなら、事業場では産業医は1人であることが多く、自分のみで判断を迫られることが多いからです。また、産業保健領域では臨床医学と比べて明確な方針が打ち出しにくいこと、患者-医者関係ではないので多様な人と対等に意見を主張し調整する必要があることなどもあります。なんとなく仕事はできてしまいますが、「どのようなアプローチをしてはいけないのか」が曖昧で、時折不安に襲われることが多いです。また、産業保健に関してどのような学習リソースを利用すれば良いのか迷うこともあります。

大規模な事業所では、常勤産業医が複数いて相談ができる環境が整っていることもありますが、新人の産業医がすべてそのようなところで働けるわけではありません。
産業医の孤独に関しては産業医の友常祐介先生(@ysktmtn)のnoteが詳しいです。

そんな孤独な産業医を教え導く、メンターとなる本が出版されました。
ガチ産業医先生(@fightingSANGYOI)が執筆された「ガチ産業医presents 産業医のピットフォール」です。ガチ産業医先生は稀少で孤独な産業保健職が繋がれる場を提供してくださっている先生の一人です。

この本の素晴らしい点は「産業保健活動の落とし穴(ピットフォール)」の視点から書かれているところです。これは、多くの研修医が手に取ったであろう本「研修医当直御法度」に通じるものがあります。研修医時代の皆さんは「まず、何をしてはいけないのか」を身につけたのではないでしょうか。

産業保健活動にも多くの落とし穴があります。残念ながら、全ての落とし穴を避けていくことは難しいでしょう。しかしながら、ある程度は落とし穴を回避したり、もし落ちてしまっても早く這い上がることはできると思います。

この本は単なるアンチョコ本ではありません。多くの参考文献が引用されており、重要な職業コホート研究や各種ガイドラインなどが記されています。文献が最新なのもありがたいです。一つ一つ読み込んでいくとかなりの知識が身につきます。閑話休題で書かれているコラムからもとても良い視点をもらえます。まるで、頼れるメンターから「こういう時は…だね。この文献は重要だよ」と仕事中に教えてもらっているようです。この本は産業医だけでなく、産業保健師や衛生管理者、人事労務の方にも大変参考になります。

著者が「はじめに」で述べているように、産業医活動はやり方によってうまく進めることができ、たくさんのやりがいや醍醐味がある仕事です。
この本によって、産業保健活動に携わる多くの方が落とし穴に気づき、産業保健活動に充実感を得ることができるようになるのではないかと思います。


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