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アカデミア向けの求人プラットフォームを作った話

大学院の学生募集がイケてないと、ずっと思っていました。
博士を取ってから一旦就職し、その思いは更に増しました。

僕は東京大学大気海洋研究所というところで修士・博士を取ったのですが、5年間を通して直属の後輩は修士・博士含めて二人で、全然学生が来ませんでした。手前味噌ながらハイインパクトなジャーナルへの論文もそれなりにコンスタントに出ていて予算も潤沢にあり、国際共同研究も多く行っていて留学の選択肢も取りやすく、研究員の割に学生が少なく指導力が余っている、おまけにPIが若手で優秀かつめっちゃいい人という学生にとって絶好の環境であるのにも関わらず、です。

この理由は結局、「直属の学部を持っておらず、大学院からの入学者に頼る他ない」という状況にあるのだと思います。ではなぜ、大学院から他のラボに移る人は少ないのでしょうか?

いま、学部卒の学生が他の研究室に修士課程から移ろうと思うと、

・(しばしば更新されていない)研究室のホームページを探していいラボを探す
・(だいたい非常に読みにくい)大学のホームページから募集要項をチェックし、自分が受験できることを確認する
・(むちゃくちゃ勇気を出して)PIに連絡を取る
・(なけなしの時間とお金を振り絞って)実際に出向いて話を聞く

これだけのことを、いい研究室が見つかるまで繰り返さなければいけません。
これはキツいと思うんですよね、単純に。

特に、「一旦就職したけどやっぱ学び直したい」とか、「修士から専門分野を変えたい」とか、そーゆー人にとって特にこの行程は厳しいはず。

結果として「学会で知り合った先生のとこ行く」とか「修士の頃お世話になった先生のところに戻る」とかが増えるわけだけど、もっとアカデミアって開かれているべきだと思うのです。

美大のデザイン科の院とかは一般の大学出た人も結構受けるらしいのだけど、院進学はそれぐらい専門性を一気に変えるチャンス。そういう「人の人生を変える」社会的機能を大学院は有しているのにも関わらず、進学希望者とのコミュニケーションの不足によってその機能が充分に生かされていないと感じていました。特に最近は終身雇用神話の崩壊も手伝い、「文系出身のエンジニアだけどもっとちゃんと情報科学を学びたい」みたいな需要は確実に増えていると思っています。例えば、大学院からの理転ってことができること自体、大多数の人は知らないんじゃないでしょうか。

僕は一回社会人経験してから幸運にもアカデミアに戻れました(参考: https://note.mu/kmooog/n/naa088fbf32c8 )が、やっぱそういうキャリアがまだまだ少ないと思います。民間とアカデミアの行き来がもっと活発にならないと、日本のアカデミアの将来は暗いでしょう。今は大学院進学に関する情報があまりオープンになってないので、外部の人が研究室単位の情報にアクセスすることはとても難しいことが民間とアカデミアを隔てる一つの大きな壁になっていると感じていました。

どれだけの大きな壁があるかという例ですが、「大学院 検索」でトップにくるホームページは現状これ( http://www.daigakuten.com/search/senko.php )です。こういう情報も重要ですが、人生に悩み、やはり私はもっと学問を学びたい、そして新しい人生を歩みだそう!という人がたどり着く最初のホームページがこれなのは、ちょっと可哀想じゃないでしょうか。(daigakuten.com を否定する意図はなく、このような情報がまとまっていること自体は素晴らしいことだと思っています。他の選択肢がないことが問題なのです。)

他にアカデミアの求人情報だとJREC-INがありますけど、あれも現代の求人プラットフォームとしては厳しくなって来ている印象です。画像が載せられない、かつあまりくだけた表現を使いづらく、ラボの雰囲気やボスの人間性がまるでわからないような公募のフォーマットでは、応募する側からしても警戒してしまう面があると思います。理研の人がnoteに求人記事を書いていた( https://note.mu/kdgn/n/n6f2a68fa7d4c )のとかは象徴的ですね。「デキ公募、ガチ公募」などという言葉もアカデミアには存在しますが、それすらもJREC-INのフォーマットでは見分けることが困難です。

研究室側の視点としては、今だと大学の研究室のホームページ作る最大の理由の一つは学生募集です。しかし、30~50万とかかけてそこに至るまでの明確な導線のないホームページにリソース割くのはナンセンスじゃないでしょうか。僕の出身ラボもかなり力を入れてめっちゃかっこいいHP作ったんですが、このクオリティは研究室のHPに必要なのかという疑問もありました。(例: https://genedynamics.aori.u-tokyo.ac.jp )

研究室のホームページから学生募集を切り出すことができれば、研究者や企業向けに業績情報をまとめることなどが主目的になり、そこまでラボのホームページの見た目に凝る必要がなくなるはず。PIが直接ホームページの管理とかしてる例も結構観測しており、ただでさえ忙しい大学のセンセの仕事の一部でも減らせれば最高ですよね。
また、お金のあるラボはHPに凝れる -> 学生獲得に有利 みたいな、The rich get richer な構図も、学問の多様性のためには破壊すべきものだと思いました。

前置きが長くなりましたが、そんなことを考えたので、「学生募集含むアカデミアの求人プラットフォーム」を作りました。

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https://tayo.jp

もっとくだけた言い方をすると、「学生募集の記事も書ける、イケてるJREC-IN」って感じでしょうか。こんな記事が書けます!(閲覧にはSNSログインが必要です)

https://tayo.jp/#/studentRecruitments/1/share

大学院の恩師が学生絶賛募集中だったので、素敵な記事を書いてもらいました。

SNSシェアにもいい感じに対応させています。

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どうでしょう、この学生募集の記事、読んでいてワクワクしませんか?そのワクワクが僕の提供したいものです!本来、学問ってキラキラしていてワクワクするものなので、適切なプラットフォームが与えられれば、アカデミアの進学やポスト探しはもっとハッピーなものになるはずです。

最初に自己紹介から始めてもらったのは僕のリクエストで、「PIとの相性」ってめっちゃ重要なのに求人にPIのキャラクターが出てこないのは良くないな、というような思いからこういう書き方をしてもらいました。書いてる人の情報があった方が、研究への熱量みたいなものも伝わりやすいかなと思っています。

アカデミアのキャリアパスに多様性を、ってことでサービス名はtayoとしました。資料、医療などと同じアクセントでタヨウと読みます。アイコンは多様性のシンボルとしてのダーウィンフィンチで、シンボルカラーが緑なのは僕が光合成のラボ出身だからです。goodなロゴ&アイコンを描いてくれたのはきのしたちひろさん( https://twitter.com/chimomonga )で、東大の現役の大学院生です。簡単に使えますので、PIの方々、学生募集、ポスドク募集、技術員募集などにガシガシ使ってください。多様性は最高なので、文系理系美術系なども問いません(tayo accepts your -ology!)。美大の院の学生募集とか、全く想像つかないので見てみたいです。

繰り返しますが、作った一番の動機としては(僕の出身の)東大の大気海洋研究所みたいな素晴らしい研究施設になぜもっと人が来ないのだ、というめちゃくちゃ個人的な感情です。東大柏キャンパスは他にも素晴らしい研究所がたくさんありますし、京大宇治キャンパスとか各種大学院大学とか、研究環境が最高なのに学生が来づらいっていうのは大学院生にお金を出さない日本のアカデミアあるあるなので変えたいな、と。

将来的には民間の求人を受け入れて、「大学院進学と民間就職を同じ土俵で考えることができる」世界を目指すと同時に「民間のお金で大学院向けのサービスを回す」とかできたらかっこいいかなと思うんですが、そこまでいけるかはサービスの流行次第、という感じです。僕は本職としては海洋研究開発機構で研究員をやっているので、当面は趣味としてやろうと思っています。

このサービスの宣伝の方法をあんまり考えていないので、この記事が全く拡散されない場合、初手で詰む可能性があります。なので思想に賛同頂けた方はSNSでのシェアなどしてもらえるとありがたいです。また、職場のメーリスでこのサービスの宣伝流してもいいよ!みたいな奇特な方がいれば僕に連絡いただければ転送用のメールを送らせていただきます。数少ない手段として学会でスポンサーやるとかはアカデミアへの寄付的な意味合いでもいいなと思っていて、手始めに古巣の生命情報若手の会 ( https://www.bioinfowakate.org/meeting11 )のスポンサーをやってみたりしました(yahoo, illuminaとかと名前並んでるのウケますね)。こーゆーこともサービス続けばいろんな学会でやっていきたいなぁと思っています。学生さん方は、ボスが学生来ないことを嘆いていたら是非このサービスを教えてあげてください!

質問・ご意見・ご要望など、全ての連絡は僕のtwitter (@kmoooooog) 又は mail ( kmooog@tayo.jp )で受けつけます。現状最低限の機能しか有してないですが、機能はどんどん追加していこうと思っておりますので追加機能の要望やバグ報告などは特に嬉しいです。また、もし僕らと一緒に開発運営に関わりたい人がいたらご連絡ください(ケースバイケースですが、バイト代くらいは出せそうな雰囲気です)。多分やることは色々あるので、プログラミングはできてもできなくても構いません(できる人歓迎ではあります)。

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