マガジンのカバー画像

Mao.の読了メモ

13
小説メインの読了メモ
運営しているクリエイター

記事一覧

もしかして私、HSPかもと思ったので。 -武田友紀『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』読了メモ

特に意識はなかったのですが、最近実家に帰ったとき、母から「昔からあなたは繊細だったからね」という話になりました。 たしかに、私は人から言われるささいなひとことに傷ついたり、「なんでそんなことで怒るの?」と指摘されるようなことに怒ったりすることがあります。反面、感受性が特に豊かだとほめていただけることも(うれしい)。 そこで浮かんだのが、「私ってHSPなんじゃない?」という一つの可能性。 「生きづらいな」を少しでも打破するために、とにかく読んでみようと手に取った『「気がつ

クラブパッションに、もう一度。 -石田衣良『初めて彼を買った日』読了メモ

私のブログで、一番読まれている記事はこちらの『爽年』読了メモ。 投稿から約3年になるのですが、今でもたくさんの方に読んでいただいていまして、とてもうれしい限りです。 そんな、私の人生を動かしたと言ってもいい『娼年』シリーズ。何度も読み返しては、欲望と優しさの物語に涙しているのですが、2021年1月に講談社文庫から発行された『初めて彼を買った日』に、『娼年』のプレストーリーとなる書き下ろしが編まれました。 2021年になって、『娼年』シリーズともう一度触れ合えた喜

少女漫画の世界だと思ってた。現実だった。 -平子祐希『今日も嫁を口説こうか』読了メモ

最初に断っておくと、私には「いい恋愛」の経験があまりありません。 はじめてお付き合いをした男性とは半年ほどで自然消滅したし、高校時代から4年半ほど付き合った方は浮気相手とのお子さんができて別れたし。んで、なんだかんだつい最近、久しぶりにお付き合いをした彼氏にフられたし。だいたい私が「好き好き」って依存して、飽きられてフられるの繰り返しです。 20代も半ばに差し掛かってきて、実家や祖父母からはいい人はいないのかとせっつかれるお年頃。しょうがないじゃん、まだ出会っ

「あしたの家」の子供たちは明日の大人たちです。-有川浩『明日の子供たち』読了メモ

「おかあさんは、私よりも施設の子のほうが大事なんだ!」――。 これは幼き日の私が、児童養護施設で働く母に向けて放った言葉です。今思い返せば、なんてひどいことを母に言ってしまったのだろうと胸がぎゅっと苦しくなるのですが、当時の母はそう泣きじゃくる私を抱きしめ、「ごめんね、ごめんね」と繰り返していました。 『明日の子供たち』は、児童養護施設「あしたの家」を舞台に、新米職員と入所する子供たち、それを取り巻く社会の目線を優しく描き切った長編小説です。 初出は2

とてもあたたかく、おいしい5年間をありがとう。 -小湊悠貴『ゆきうさぎのお品書き』シリーズ読了メモ

「おいしい」は笑顔に直結するものだと思っています。 どんなに疲れていても、悲しいことがあっても、あたたかくておいしいものを食べたならば、ほっ、と肩の力が抜け、口元がやわらかくなる。それは他人が作ってくれた料理でも、自分が作った料理でもおなじ。私は「ごはんを食べる」ということがだいすきです。 『ゆきうさぎのお品書き』シリーズは、色とりどりの表紙にうっかりと釣られ、表紙買いしてしまった作品。2016年、集英社のライトレーベルであるオレンジ文庫がまだ立ち上がって間もないころ、第

少女が翔ける。力強く。-村山由佳『天翔る』再読了メモ

「エンデュランス」という競技を知っていますか。 馬術競技の一種で、数十キロ、長いものでは150キロを超える距離を、馬と騎手が単独で走破する競技です。ただ走破すればよいだけではなく、区間ごとに獣医師が待機、馬の健康状態を診断し、その診断をクリアしないと次のステージに進めないため、騎手は常に馬の健康状態に気を配る必要があります。まさに、馬と騎手との絆が求められる競技なのです。 『天翔る』は、そんなエンデュランス競技に出合い、そして果敢に挑戦していく少女と、それを見守る大人たち

これが、16歳が描く20代。-青羽 悠『星に願いを、そして手を。』読了メモ

ずっと気になっていた、第29回小説すばる新人賞、史上最年少受賞作。当時作者である青羽先生は16歳。2000年生まれ。現在も10代なのかぁ・・・、若いなぁ。 10代の描く「大人になったばかりの大人」視点は、あまりに脆く、儚く、夢に満ちたものでした。『星に願いを、そして手を。』です。 2017年2月に単行本発売。その後2019年2月に文庫化。昨日たまたま訪れた書店にて、文庫本が堂々と目立つところに積まれているのを発見。「ああ、数年前に話題になったアレね・・・」と手にとり、昨日

東京のカフェが最強の海外旅行 -近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』読了メモ

色々なジャンルの小説を読んでいると、たまーに来る「メシモノ小説読みたい欲」。バレンタインが過ぎたあたりから、甘味の効いた小説が読みたくなって、本屋に足を運びました。その時たまたま目に入ったのが今回の作品。近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』です。 初出は2017年刊行の単行本。2019年11月に文庫化され、その後すぐに重版。現在流通している刊は第4刷のようです。すごいハイペース。 はじめは短編小説集かな?と思っていたのですが、読んでみたら連作短編集でした。途中で止めることな

女の決断は、重くて儚い。-島本理生『Red』読了メモ & 映画化に寄せて

島本理生という作家の作品を手に取ったのは『ナラタージュ』が最初でした。 美しくも切ない、先生と生徒の踏み込んだ愛を描いたその作品は、今でも島本理生先生の代表作であり、「なにかオススメの恋愛小説ない?」と言われれば、私も一番にタイトルを上げる作品でもあります。 島本理生先生が、初めて描いた官能小説『Red』。 初出は2013~2014年の「読売プレミアム」内連載。その後、中央公論新社から2014年刊行、第21回島清恋愛文学賞受賞作です。 そんな『Red』が、三島有紀子監督

音の繊細さと美しさを改めて想う -小説・映画『羊と鋼の森』

1歳半からソルフェージュとピアノを習っていました。 物心ついた頃から家には母の使っていたアップライトピアノがあり、それはやがて自分のためのグランドピアノに変わりました。 音大を真剣に目指していたため(のちに金銭面で断念)、一日3時間はピアノを弾き込んでおり、ピアノの狂い方も激しく、半年に1度は必ず調律師さんを呼んでいました。 調律師さんは、毎回2時間ほどかけて私のピアノを調律してくれます。 1つ1つのハンマーを、私好みの音になるように、しっかりヤスリをかけ、フェルトに針を刺

だいたい人間関係はアンバランス -加藤千恵『アンバランス』読了メモ

私は結構ドロドロとした、こっくり濃いめの恋愛小説が好きなのですが、今回手にとったこの作品も例に漏れない激重恋愛小説でした。カトチエ作品の最新文庫化?作品『アンバランス』です。 初出は別冊文藝春秋、単行本は2016年3月に発行済みで、2019年6月にやっとこさ文庫化されましたのでウキウキと買って2ヶ月ほど寝かせておりました。 カトチエ作品といえば、短歌と短編集のイメージ(ハッピーアイスクリーム等)が強く、長編作品はあまり出ていない印象でした。今回、カトチエ作品にしてはボリ

伊藤計劃DNAを繋げ -ハヤカワSFマガジン『伊藤計劃トリビュート2』読了メモ

私が敬愛する、伊藤計劃という作家は、たった2つの長篇を残し、34歳という若さでこの世を去りました。あまりにも若く、あまりにも惜しい。そう思える、ゼロ年代を圧倒するSF作家だったと思います。 彼がこちらを旅立って、早10年。次の3月で、もう11年になります。 彼の作品は多くの人に愛され、そして伊藤計劃という人物を敬愛する若手作家も多く出てきました。そうした作家のSF短編を集めた『伊藤計劃トリビュート』。一冊目は、伊藤計劃と同世代である中堅作家から若手を集めた超巨大アンソロジ

少年が青年に成長し、壮年を迎えるお話 ー『爽年』読了メモ

今年の桜は特に早かったですね。気づいたら葉桜でした。 日本人は本当に桜が好きだと思う。 気象情報で毎日のように開花予想を眺め、三分咲きにでもなろうものなら、お酒を片手に気のしれた人々と外へ繰り出す。卒業式、入学式、入社式…人生の節目にはだいたい桜がある。 2001年、『娼年』が発表されてから17年をかけて、2018年4月5日の『爽年』発売を以て娼年シリーズは遂に完結した。見事な桜色の表装、連想したのは桜(と咲良)。勝手な連想だけどね。 2001年というと、私はたったの6歳だ