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【弁護士相談室#1】海外留学に意味はある?

若手弁護士や就活生からの質問を素材に、弁護士のキャリアの話題などを中心に考えてみるシリーズです。内容は備忘録のようなものです。今回は、

アメリカの弁護士資格を持っていてもそんなに有利にならないと思うのですが、留学することにデメリットを超えるメリットがあるか?

というテーマについて、コメントしたいと思います。これは真剣に語り出すと、薄い本一冊くらいは語れる位のテーマなのですが、ここではポイントだけにしておきます。

弁護士の留学

私もそうですが、企業法務系の大手、準大手、あるいはいわゆる渉外事件をやる渉外事務所、外資系の事務所などでは、実務に出てアソシエイトとして数年(私の時代は3~4年)経験を積んだ後、海外ロースクール(主としてLLM)に留学する人が割と多いです。大手事務所のパートナーの経歴を見てみると、一目瞭然ですね。留学先は米国が多いですが、英国やそれ以外の国の大学を選ぶ人も最近は増えているようです。

米国の場合、要件を満たしていれば、ロースクールの卒業後、NY州(あるいはCA州)の司法試験(Barと呼ばれる)を受験し、資格を取る人が多いです。その後(Barの発表はもっと後ですが)、ビザ上には1年研修期間が設けられていますので、事務所とリレーションの強い海外ローファームを紹介してもらうなどして、研修生あるいは海外弁護士・1年目アトーニーといった立場で仕事をする(研修をする)ということが多いと思います。ただ、最近は、日本企業のパフォーマンス低下の影響もあって、海外のファームの研修先がなかなか見つけづらいこともあり、日本に戻って官公庁や企業に出向する選択肢を取る人も多いと聞いています。

最近、海外の物価がかなり高くなっており(日本が安くなっておりというべきかもしれませんが)、海外ロースクールの学費もかなり値上がりしています。事務所や派遣元に留学支援制度がある場合も多いのですが、支援の範囲はまちまちで、経済的にはかなりの負担が生じる場合が多いかと思います。

留学への疑問

留学を視野に入れる層は、だいたい実務に出て4、5年というところかと思いますが、その時期は、ちょうど仕事でも一通りのことを経験し、案件の取り回し方も覚え、後輩も入ってきてチームを組んだりして、まさに仕事が面白くなってきた時期でもあります。クライアントの中には、自分を気に入ってくれる先もちらほら出てきて、直接声がかかる機会などもあったりします。

そこで、1年、2年と実務からは離れると、クライアントとの関係性も一旦切れますし、実務経験もブランクが生じます。実は、留学のための準備(TOEFLなど)は結構大変で、仕事も忙しい中で時間も取られるし、労力もかかります。そして何より経済的負担は大きくて、多くの人は、数年働いて貯めた預金をほとんど使い果たします。それらのデメリットがある中で、本当に海外留学にそれだけの価値があるの?、という疑問の声も特に最近は耳にするようになりました。

「留学なんて意味がない」の真相

そこで、海外留学経験者の先輩の話を聞いたりすると、中には、シニカルに「留学なんて意味がない」という人がいたりして、さらに迷う要因になったりします。

NY州(CA州)の資格を取ったとしても、その資格でそのまま海外で仕事をするという日本人留学生はかなり少数派であるわけですが、上述のような言葉の真意は、どちらかというと「海外ロースクールや研修で得た海外の法律知識がその後の実務に直結しない、役に立たない」、という点で言われているのかなと思います。

実際、日本の弁護士を想定しますと、あくまで日本において日本法のアドバイスをするのが主たる仕事になりますので、基本的に海外法の知識を使ってアドバイスをする場面はかなり限られています。なので、実務に直結しない、という感覚になるのもある程度は理解できます。

ただ、私の場合で言いますと、研修を含めた約2年間で、日本とは異なる思想で構築された法体系を学び、実際にその思想の下で様々な制度が運用されているのに触れることによって、日本の法体系や法制度をそれ以前より客観的に見ることができる視点が得られたように思います。言い替えると、日本の既存の法制度や、裁判例なども、必ずしも所与のもの、として考えなくても良いのではないかという発想です。実務家たるもの、そういう発想はもともとあるのですが、雲をつかむような話ではなく、その「手がかり」がおぼろげながら見えるようになった、という感覚かなと思っています。

大局的に言うと以上ですが、勿論、ロースクールで学んだ細かな知識や、実際に見てきたのプラクティスについても、日本の実務で行き詰った際の「手がかり」の一つになることがしばしばあるので、目に見える面でも引き出しは増えたのかなと思っています。直接的ではなくても、弁護士として実務をやっている上で、あらゆる面でこの経験が結びついていると言えるかなと思います。

実はこれはスタンスの問題で、自分のキャリアを構成する一要素になっていると考えるか、それとも無駄だったと切り捨てるかの違いなのですね。つまり、「海外留学の経験を活かそうと思うか、思わないか」という点で考え方が違うということなのだろうと思います。海外留学をすればその経験が自動的に役に立つという発想だと、シニカルな方に行ってしまいがちなのかもしれませんね。

チャンスがあれば行くべき

今は、特に経済面の負担が大きくなっていますので、海外留学のハードルが少し高くなっているとは思いますが、もし諸条件が揃い、チャンスがあるということなら、それだけでもかなり環境に恵まれているということが言えると思います。そして、そういう環境なら、私は多少無理してもトライすることをお勧めします。

そこに、デメリットを超えるメリットがあるか、という点については、それはあなた次第、というのが結論です。

ただ、一つ言えるのは、投資と同じで、リスクを取らないことにはリターンはないわけですから、リターンを得ようとするなら、そのリスクを取る必要があります。そして、現時点での期待利回りで言えば、十分な機会であるというのが私の意見なので、お勧めすると言いました。

今回は、法曹キャリアとしてのメリットの話をしましたが、それ以外にも、家族がいれば家族にとって、単身であっても自分自身にとって、海外で生活をするということは多くの学びがあることです。確実に、自分の法曹としての、加えて(本稿ではあまり触れませんでしたが)多様な価値観に触れることで、人間としての幅は広がるだろうと思います。

機会があるなら、是非トライしてみてください。

(了)

※自己紹介

私の自己紹介については、以下のページにまとめておりますので、こちらをご参照ください。連絡先は、後記のとおりです。

Eメールでの連絡先:
info@sparkle.legal
事務所連絡先:
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町2-105 ワテラスアネックス1205 
スパークル法律事務所
TEL: 03-6260-7155

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