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相続は大きく7つのポイントに分けると理解が楽

その日は仕事が休みで自宅のソファーでスマホでゲームをしていた新井 友洋(あらい ともひろ)は、画面に表示された母親からの着信画面に少し面倒くさそうに対応した。

「何?どうしたの?」

スマートフォンから聞こえてくる母親の声は明るく、やっと順番待ちの施設から連絡が来て入れる事になったということだった。

要介護認定を受けたばかりの今年83歳になる母親の初代(はつよ)は、息子の友洋にこれから入る施設についていろいろと話し始めていた。

母親の事はこれまで、兄の貴彦(たかひこ)に任せっきりにしていたが、研究職の貴彦の転勤が決まり、そのタイミングで母親を施設に入れることが話し合われて、自宅からほど近い民営の老人介護施設に入所の申し込みを入れて、そこから順番待ちとなっていた。

そして、今日やっと施設から連絡があり、入所出来ることになったということだ。

そして、母親の入所に伴い、母親から遺産相続について話がしたいと言われて友洋は少し戸惑った。

何故なら、友洋はこれまでそういった話し合いなどしたことも無かったし、相続についての知識のかけらも持ち合わせていなかったからだ。

そんな友洋の戸惑いをよそに、母親は淡々と話を続けた。

「友洋が家を買った時に援助したお金のことをお兄ちゃんに話したら、どうやら怒っているみたいで…」
「それで、お兄ちゃんから今後の相続のことについて場を設けて話がしたいと言われてね…」

確かに友洋は10年ほど前に、結婚を機会に東京の八王子市の郊外に一戸建ての住宅を買っていた。

住宅の購入にいろいろと動いていた時、不動産会社の担当者からこんなことを言われて、母親に相談した。

「ご両親から“住宅取得資金”の援助が受けられるかどうか聞いてみていただければと思います。」

10年前はまだ、父親も健在だったことから、友洋は父に相談して、1,500万円の住宅取得資金の援助を受けていた。
そして、どうもこの友洋に対する1,500万円の住宅取得資金の援助のことは兄の貴彦には知らされなかったらしい。

それが、母親が兄の貴彦に10年前に両親が行った“友洋に対する1,500万円の住宅取得資金の援助”のことを話したらしく、それで、怒っているとのこと。

そして、今後の相続のことについて場を設けて話し合いがしたいと言ってきているという。

友洋は兄の貴彦に対しては、実家を出てからはほとんど接点が無い。
貴彦は実家の近くにアパートを借りて一人で暮らしている。

父親や母親も兄の貴彦のことについてはあまり話をしてこないし、友洋から聞くことも無いが、仲が悪いということでもなかった。

友洋が帰省した時に、実家で食卓を囲む時は貴彦も居たし、貴彦も友洋に対して悪感情を持っているとは考えられなかった。

それが、今回の1,500万円の住宅取得資金の援助があり、様相が違って来ているらしかった。

ただ、友洋としては“相続についての話し合いの場”に参加したところで、有益な話し合いが出来るのか不安だ。

何故なら、友洋には相続についての知識が皆無に等しいからだ。

友洋の仕事は東京の大手スーパーマーケットチェーンの副店長で、仕事で相続に関わることなどこれまで無かったし、友人と相続について話をしたこともない。

当然、本も読んだことが無いし、ネットで検索したことも無い。

そんな状態で専門用語とか出てきたら、その時点で思考は止まってしまうのではないか?そう思うと、少し憂鬱になった。


親から財産を受け継ぐこと


人は年を取り、やがてこの世を去っていくことは誰でも知っていることなのに、どこかで今という時間が永遠に続くかと錯覚している人は少なくありません。

自身の母親や父親も例外はなく、いつかお別れする日が必ず来ます。

今回のケースで言えば、友洋さんは10年前に父親がこの世を去り、お別れをしています。
そして、今年83歳になる母親の初代(はつよ)とも遠くない未来にお別れをする日が来ることが予測出来ます。

その日が来た時、つまり母親の初代(はつよ)とお別れをする日が来た時、その後どうなるでしょう。

母親が住んでいた自宅は?母親が持っていた財産は?誰がどうするのでしょうか?

全て兄の貴彦のものになるのでしょうか?
それとも、全て友洋のものになるのでしょうか?
あるいは、兄弟仲良く半分ずつ分けるのでしょうか?
独り占めするにしても、分けるにしても財産をそのまま受け取ってしまえるのでしょうか?

これが“相続”というものです。

当然、そこには法律や税金を始め、それぞれの感情など様々な事柄が絡んできて、その対応を誤ると損をしたり、トラブルに発展したりしてしまいます。

そして、親から財産を受け継ぐということは、ある意味では親の遺志を継ぐことでもあるのです。

適切な相続対策をするために


親が生前、一生懸命に仕事をして稼いだお金やそのお金で買った土地や住宅を子が受け継ぎ、それを子や孫が使って生活を豊かなものにしていく。

そう考えると、至ってシンプルなことですが、そんなシンプルなことを正しく円滑に実行していくためにわたし達は“相続”について、知ることが欠かせないのです。

“相続”と聞くと、全て専門家に任せてしまえばいいと考える人も少なくありませんが、相続についての知識が全く無い人が、どの専門家が相続について詳しく、こちらが望むような対応をしてくれるか?を図ることなど出来るはずがありません。

相続に対して能力の高い、経験豊富な専門家も居れば、能力が低く、経験も浅い自称専門家も数多くいます。

自称専門家に相続を任せてしまって、大変な損をしたという話もよく聞きます。

だからこそ、相続に関する最低限の知識は無いより絶対あったほうがいいというわけです。

相続のことを理解する


どんなに解決が困難そうな問題でも、その問題を一つ一つの要素に分けて、その分けられた問題のひとつずつの要素であれば、解決の糸口も見つけやすくなります。

同様に、相続についても、一つ一つの要素に分けて見ていくと、より理解が楽になります。

わたし自身、初めて相続のことを理解しようとした時、何も頭に入って来ませんでした。

まず、単語が分からない。
次に、状況が分からない。

単語というのは、

例えば、相続の本で、「特別受益者が居る場合〜」といった、文章があってその『特別受益者』が誰のことで何のことか分からないから先に進まないということです。

状況というのは、

「被相続人の財産の維持や増加に貢献したり、献身的な介護をした。」といった文章が表現している状況が分からないのです。

つまり、知らない単語のわからない状況で書かれている文章って、読んでいても何も頭に入ってこない。

多くの相続関係の書籍って、ある程度相続について基礎知識を持っている人を対象に書かれていることが多いのです。

どれだけ、“初心者向け”とうたっていても、よほどの専門用語以外は解説してくれていないので、そこで止まってしまいます。

では、どうやって相続の知識を身につけていけばいいのか?というと、それは、前述したとおり、まずは“相続”を要素に分けて、その要素ごとに理解を深めていくことなんです。

そして、ここでは相続を7つの要素にわけていくことにします。


相続、大分類の7つの要素

それは、次の7つになります。

  • 遺言書

  • 法定相続人

  • 遺産分割

  • 贈与・遺贈

  • 不動産

  • 生前(相続)対策

  • 税金・法律

です。

相続というものを俯瞰して見ると、この7つの要素が見えてきます。
そして、この7つの要素について“知る”ことが相続を理解することになります。

今回の友洋さんの事例もこの7つの要素に当てはめて考えていくと、友洋さんが考えることがクリアになっていきます。


相続についての話し合いの前に考えておくこと


まず、母親の初代(はつよ)さんに“遺言書”を書いてもらうことが話し合いの着地点になると思います。
遺言書とは、残された相続人同士が揉めないように被相続人(亡くなった方)からのメッセージです。
その中には財産の分け方を始め、被相続人が相続人に対しての希望が書かれています。

そのためにまず、法定相続人が誰になるのか?を明確にしていくことです。

法定相続人が明確になれば、初代(はつよ)さんの財産をどのようにして、遺産分割するのか?を話し合います。
この時、重要なことは、法定相続人の誰に何をどれだけ相続してもらうのか?を決めるのは全て初代(はつよ)さんだということです。

倫理的に見ても相続人には決める権利は無いでしょう。

また、既に贈与されている財産があるのかも確認しておかなくてはなりません。
今回のケースでは、“友洋に対する1,500万円の住宅取得資金の援助”が話し合いのテーマの一つに上がっています。
兄の貴彦さんがこの“友洋に対する1,500万円の住宅取得資金の援助”に対してどのような心情を持っているのか?を友洋さんや初代さんは聞くことが後々のトラブルの防止に繋がって来ます。

また、遺贈についても話合う必要があります。

遺贈とは、被相続人が法定相続人以外の人に対して、遺産の一部、または全部を譲る意志があるのか?といったポイントは、法定相続人からすれば、気になるところでしょう。

次に、不動産です。

不動産という財産は、預貯金と比べて、次の点が違ってきます。

相続財産の40%を占める
価値がひとつではない
物理的な分割が難しい
特例が使えるものがある

そのため、相続における不動産というのは、それ専門の書籍が何冊も出版されているほど、奥が深いものです。

ここまで話し合いが進めばこれからの生前(相続)対策を講じていくステップに進んでいけるでしょう。

例えば、年間110万円の贈与を行うとかそういった対策です。

そして、税金・法律についても基本的な部分は頭に入れておくことが求められます。

どれだけ、自分たちにとって最良だと思えるような遺産分割や生前の対策を施しても、それが税金や法律を無視したものであれば、それは実現可能性がありません。

今回は、相続を大きく7つの要素に分けてみました。

そしてこの7つの要素ごとに最低限の知識を身につけて、それぞれを組み合わせて行けば、相続についてより理解が深まっていきます。

■相続・不動産でお悩みの方の相談窓口

三茶萬相談:https://sanchay.jp/


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