パンダのプンダ、旅に出る その9

第9話「パンダのプンダ、パンダになる」(全10話)

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 北極は右も左も前も後ろも真っ白です。真っ白なプンダですので、まるで北極に溶けてしまったような気がしました。シロクマたちに話かけようにも、きっとプンダのように真っ白で、なかなか見つけられないでしょう。

 でも、プンダが探しているのはシロクマではなく、パンダになってしまったシロクマです。この北極の中では白黒のシロクマはすぐに見つけられるはずです。

 プンダは胸に手を当てて、もうひと頑張りすることにしました。

「おぉ~い」間延びした声でプンダは言います。「パンダのシロクマさ~ん、どこぉ~?」

 とてとてと歩いていますと、

「どっぽーん!」

 という音が聞こえました。

 プンダはびっくりして「あわっ!」と声を上げてしまいます。音のした方へおそるおそる歩いてみますと、いっぴきのパンダがいました。

 こんな北極にパンダ……もしかすると、プンダの探していたシロクマかもしれません!

 プンダは「あ、あのぅ……」と声をかけます。

「ああん?」そのパンダは、びっくりするくらい怖い目をしていました。「なんだよ、おれのこと馬鹿にしたいんだろ、そうなんだろ?」

 プンダには彼の言っている意味が分かりませんでした。プンダはびくびくしながら聞きます。

「ど、どうしたの……?」

「どうもこうもねぇよ、見たとおりだ。こんな体になっちまったから、まともにアザラシも捕まえられねぇんだよ、チクショー」

 こんな体、というのはきっと白黒の体ということでしょう。真っ白な北極ですと、彼のような白黒は目立ってしまいます。先ほどの「どっぽーん!」は、彼を見つけたアザラシが海に飛び込んだ音でしょう。

 でも、これでこのパンダが、パンダじゃなくってシロクマだということが分かりました。彼がプンダの黒模様を盗んだ犯人なのでしょうか。でもプンダの目にはちっとも彼が嬉しそうじゃないように映りました。

「ねぇ、どうしてキミは黒模様があるの?」

 プンダは言いました。

「ふん、おれにだってわからねぇんだ。ある日起きたらおれはパンダになってたんだよ」

 それはまるでプンダと同じ状況でした。そこでプンダは「ボ、ボクもなんだよぉ!」と打ち明けました。シロクマは不思議そうな顔をしました。

 プンダもまた、ある日起きたらシロクマになっていたことを話しました。それから、黒模様を求めて旅に出て、こうして北極まで来たことも話しました。

 それを聞くとそのシロクマは、驚いたような、でも納得したような変な顔をしました。それから彼は少しだけ考えると、

「でも、それがホントだとして、どうやったらおれたちは元通りになれるんだ?」

 そうです。シマウマのゼブリのときも頑張りましたが、けっきょく黒模様のもらい方は分からずじまいでした。

 プンダも考え込みます。

 このままパンダに戻れないのでは、ピンダに、ペンダに、ポンダに、そしてなによりアイマに申し訳ありません。せっかく勇気を分けてくれたのに……そこまで考えると、プンダは

「あっ!」

 と言いました。

 プンダはそれに気がつくと、シロクマと抱き合いっこをしました。

「お、おいお前、いきなり何するんだっ」

 シロクマはじたばたしますが、プンダはそれでもぎゅっとします。

「あのね、よく聞いて。こうして抱き合いながら黒い模様がボクの方へ来るように念じてほしいんだよぉ」

 そう、プンダはアイマの言葉を思い出したのです。

『こうやってぎゅってするとね、自分のパワーをあげることができるって、あたしのおばあちゃんが言ってたの』

 そしてプンダはアイマから勇気をもらったのでした。きっと、黒模様だってもらえるはずです。

 シロクマはプンダの言葉を信じると、目をつむって念じました。プンダもまた、目をつむって「黒模様、こっちへ来て!」と念じました。強く強く念じました。たくさんたくさん念じました。

 それからどれだけの時間がたったでしょう。

 ふたりは同時に目を開きました。

 プンダはシロクマを、シロクマはプンダを見ました。するとどうでしょう、ふたりの顔にはお花が咲きました。

 プンダはパンダに、シロクマはシロクマに戻っていたのです!

 ふたりとも抱き合ったまま「わーい!」と言い合いました。たくさんジャンプしました。ぐるぐる回りました。それからプンダの肩に、ぽた、と何かが当たりました。

 それは涙でした。

 シロクマは言いました。

「おれな、おれな、いきなりパンダになってな、アザラシ捕まえられなくなってホント悲しくなって、悔しかったんだよ、そいでな、そいでな…………うぐっ、あ、う、あ、あぁ……!」

 シロクマは言葉にならない言葉を言いました。プンダは、そうしなきゃいけないような気がして、ぎゅっと強く抱きしめました。

* * *

「なぁ、お前、名前はなんて言うんだよ」

「ボクはプンダ! キミは?」

「おれはシロク。いい名前だろ」

 プンダは笑顔でうなずきました。

「プンダ、今度はおれがお前のところに遊びに行くよ。そんときはでっかいアザラシを持ってってやるからな」

 シロクが遊びに来てくれるのは嬉しいのですが、アザラシはちょっと……、と思いました。

「おいしい昆布を持って来てよ」とプンダは言いました。

 そしてシロクも笑顔でうなずきました。

「じゃあな、プンダ。元気でな!」

「うん、シロクも元気で!」

 プンダとシロクは手を振ります。パンダは森へ、シロクマは北極で。あるべき姿であるべき場所へ。ふたりは手を振り、お別れをしました。

 プンダはウミガメにまた乗りながら、「ピンダ、ペンダ、ポンダに早く会いたいなぁ」と思いました。やがて陸に着くとプンダはウミガメにパンダのダンスを踊ってお礼にしました。それからプンダは竹をたまに食べながら、自分の森へと歩いて行きました。

 さあ、森はもうすぐです。

 するとプンダは、あるひとを見つけました。

「……あれ、ゼブリ?」

 そこには、シマウマのゼブリがいました。

(第9話 おわり)

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