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[小説ぺろ太郎]第1話:はじまり

どれくらい時間が経っただろうか。
彼は自我を認識してから、自分がなぜうさぎなのか、この公園はどこなのだろうか、ここで待っていれば誰かが迎えに来てくれるのだろうか、
さまざまなことに思案をめぐらし、ただ流れていく時間を感じ、
空腹に耐え、小鳥のさえずりに耳をすましていた。

彼の白い毛並みは汗のにおいを発し、風で舞い上がる土によって汚れていた。

「おなかがすいたでやんすー。」

そこへ杖をついたグレーの髪を束ねたおばぁがやってきた。手には小皿を持っている。

「かわいそうなうさぎちゃん。名前はなんて言うんだい?」
おばぁが尋ねるも、うさぎは自分の名前をしらない。

「あら?この段ボールに書いてあるじゃないかい。」
おばぁがうさぎが入っている段ボールに書いてある文字に目を向ける。

「ひろってください、ぺろ太郎。
あんた、ぺろ太郎っていうんかい!おなかすいただろ?
ほれ、みそ汁ぶっかけごはんだよ。」

小皿にはみそ汁がかかったごはんがのっていた。

「おばぁ!ワイを殺す気か!?うさぎがネギを食べると溶血性貧血を起こすでやんすよ!」
ぺろ太郎は憤った。

おばぁは申し訳なさそうに、箸でネギをひとつひとつ取り除いた。

すべて取り除くのと同時にぺろ太郎はみそ汁ぶっかけごはんにむさぼりついた。

「うんまーいっでやんす!」

空腹のときに食べるごはんほどおいしいものはない。

「タダで飯をくれるなんて、やさしいおばぁだな」
ぺろ太郎がそういうと、おばぁは苦笑いして、

「働かざる者、食うべからず。食べたからには働いてもらうよ。
ついてきなさい。」

と言って歩き出した。

かわいそうな捨てられたウサギをみて同情して飯を与えてくれたのだと思っていたぺろ太郎は面食らったが、
社会は労働によって成り立っていることを知り、おばぁについていったのであった。

つづく


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