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『都スカイハイ』全曲レビュー(アイドルオタクの自分語りを含む)


『きのホ。』に出会って初めてのアルバムリリースだ!

 2023年10月に行われた『きのホ。』2周年ライブからファンになった私は、今回推しているアイドルのアルバム発売に初めてリアルタイムで立ち会うこととなった。紆余曲折あり金は無いが時間がたくさんある状態なので、アルバムレビューをしていこうと思う。
 仕事で文章を書くのは好きだが、自分の気持ちを言語化して綺麗な文章に整えるのは恥じらいが邪魔をしてなかなかできない質だ。しかし、そんな私の重い腰を上げるだけのエネルギーに満ち溢れたアイドルたち『きのホ。』。思い立ったが吉日という言葉に倣い、彼女たちからアルバムを通して受け取ったエネルギーを後にこの文章を読む私のために綴っていく。

アルバムレビュー

麗しのタンバリン

 パワフルなギターが奏でるロックバンドのような無骨なイントロのメロディラインは、『きのホ。』が可愛いで埋め尽くされた世界からやってきたキラキラしたアイドルではなく、どんな環境であろうと輝こうとする力強さを持った存在であることをこの世に知らしめるかのようだ。彼女たちの現状の屈強さをそのまま歌にしたかのようなリード曲は、このアルバムに収録されている楽曲たちがただものではないことを予感させる。

信じているものを疑って
信じちゃいけない事を見てる
同じ穴のムジナを集めて
一緒に夜を明かせばいいじゃない

『麗しのタンバリン』より

 上記の歌詞は混沌とした世界で蔓延る世論、時代にあわせて目まぐるしく変わる価値観のなかで、信じたいものを信じて愛する偏屈なオタクである私のお気に入りのフレーズだ。何かにのめり込み志を同じくする人間たちがいる薄暗いライブハウスのドアをくぐったときのワクワク感を聴くだけで思い出してしまう。鬱屈した気持ちをすべてぶつけて狂ってしまったような楽しすぎるサビもたまらない。

 御守ミコちゃんも言っているがこの歌詞がちゃんとカッコいいのだ。すごい。

TEA

 アルバムリリースツアー前のライブやラジオ出演時に先出しされていた一曲なので、リリース直前はこの曲ばかり反芻してどのような楽曲が入ったアルバムになるのか楽しみにしていた。突き抜けるようなシンセサイザーから始まり明るい曲調で歌われる歌詞は、聴き手を励まして明るい気持ちにさせるだけではなく、負の感情に同調して怒りや悲しみを盛り上げその感情を乗りこなすジェットコースターのような楽しさを再認識させてくれる。

あなたの怒りが炎だとしたら
私の言葉は油言葉で
大きくなってまた会える日まで
美しいものを集めておくわ

『TEA』より

 何かに憤りその熱量を絵や漫画にして昇華する生き方をしてきた人生なので、時折体調を崩すほどに行き過ぎた怒りを抱く自分自身を肯定されたかのように感じる。オタクという生き物は勝手に救われてしまう性質があるのだ。

アンバランス

 上記の曲たちと同じように重厚感のあるバンドサウンドから始まる本曲だが、ハイテンションに駆け抜ける今までの曲とは違い歩くようなテンポになっている。本人が言っていたようにこの曲は小花衣こはるちゃんのことを歌っているかのように感じた。私から見たこはるちゃんは内面で色々考えたうえでステージ上で元気で明るくあろうとしてくれて、ファンたちに自分が楽しい人生を歩んでいることを伝え続けてくれる存在に感じる。そんな彼女が明るく振る舞うに至るまでの内面の湿度の高い部分を表したような歌詞は、ライブの時に見せる大きな目で客席を見渡す顔を思い出させる。読みづらさを感じる歌詞や、左右交互に聴こえるようにされている歌声は、こはるちゃんがたまに見せる不器用で生真面目な本質が見え隠れしているようだ。(と書いたが、オタクが彼女がアイドルとして見せている部分から受け取っている情報からの推察でしかない。)

遊びたい年頃は過ぎたかも
あなたにはここにいて欲しいかも

『アンバランス』より

 上記は私の推しメンである御堂莉くるみちゃんのパートなのだが、私がくるちゃんぐらいの歳のころは全然遊びまくりたい年頃だったし、誰が隣にいると嬉しいのかも分からなかった。そのため、この歌詞を説得力のあるものとして歌い、オタクを嬉しい気持ちにさせるくるちゃんはさすがだ。

馬鹿と煙

 4月に配信シングルとしてリリースされた一曲。カントリー調の可愛らしい曲調に乗せて踊る『きのホ。』のメンバーたちの様子が脳裏に浮かぶ。掛け合いのように歌うAメロは、今までの『きのホ。』には無い歌割りで何度聴いてもメロメロになってしまう。

都スカイハイ

 アルバムの表題曲。作曲担当のハンサムケンヤはバンドサウンドや特徴的なメロディラインで嫌でも脳みそから離れない楽曲を生み出すのが得意なイメージだったが、清涼感を感じる流れる水のようなイントロは今までの楽曲とはひと味違い染み渡るような聴き心地に驚いた。一昔前のアニメソングのようなメロディラインは、数々の二次元のフィクションを嗜んできた耳に馴染みが良く、一度聴いただけで大好きな曲になった。その曲調は私に魔法少女を連想させ、桜寝あしたちゃんが現在の最新衣装を「魔法少女衣装」と言っていたこともあり『きのホ。』が魔法少女として京都を守ったり日常を送るアニメがあったらどんなに良いだろうか……と妄想を脳内で繰り広げてしまう。
 実際問題アイドルというのは魔法少女に非常に近い存在だと思っていて、彼女たちも人間として生きているにも関わらずステージの上で輝きを放つ姿は人間から何か別の存在に変身しているとしか思えない。

これから私輝きながら
小さな嘘を塗り替えていく
果てしなく続く旅の途中
苦い飴も舐めて行くのでしょう

『都スカイハイ』より

 この歌詞はステージに上がった瞬間魔法少女になってしまう彼女らのこの先に見せてくれるより眩しいライブを想像させてくれる。アイドルとステージ上でアイドルになることができる人間の人生を歌っているかのようで、これを歌う『きのホ。』の行く先を見るのが待ち遠しくなる。

夕立雲

 タイトルの通り、夏の暑さを和らげるような涼しい風のなかを自転車で走っているような一曲。高校生のころ自転車で片道45分の距離を往復していたのだが、アコースティックギターや優しいキーボードの音色が当時の長い帰り道の中盤に見える、高速道路沿いの何もない畑道を想起させる。そんな何気ないけれど何度も見た景色やよくあるけれどわざわざ思い出すほどでもない出来事をアイドルソングとして成立させるのは、『きのホ。』と楽曲制作陣の両方の技術があってこそだ。
 昨今の強い自己肯定感を聴き手に植え付けるキャッチーなアイドルソングももちろん良いが、このような曲を歌えるアイドルはなかなか居ない。優しげだが『きのホ。』の強みが体現されている曲ではないだろうか。(お気に入りの歌詞を引用したいところだが、この曲は一節を選ぶのが難しい……。)

クラベチャウ

 涼しげで聴きやすい楽曲が続いたところにいきなり耳に届くくるちゃんの熱のこもった歌声は、『きのホ。』の楽曲の幅をこれでもかというほどに知らしめてくる。先述の通り私は2周年ライブが『きのホ。』との初対面だったため、この曲がお披露目された場に居合わせることが出来た。可愛いからカッコいいまで、自分がアイドルとして見せられるすべてを最大出力で見せようとするくるちゃんが大好きなわけだが、この曲にはそんなくるちゃんの全てが詰まっている。初めてライブでこの曲を聴いたときの、「この子は本当にすごいな……」という気持ちを追体験させてくれる。

グッドサイン

何を持ち上げ成功と呼ぶの
皆落ち着けよ

『グッドサイン』より

 アイドルとひとくちに言っても方向性や規模感などがグループの数だけある現代、歌詞にあるように何を正解と定義するかは非常に難しい。それでも自分の推しているアイドルに天下を取って欲しいと願う気持ちは強く、私もオタクと遊ぶたびに「天下取って欲しい〜」という話ばかりをしてしまう。

カニ食ってイカ食ってタコエビ食えりゃ
世界が変わると信じてみる
金縛りを解くより大変だ
前だけ見てよう

『グッドサイン』より

 しかし誰もが明確に分かる成功として『きのホ。』は高くて美味しい海鮮をたくさん食べることをサビで提示する。実際にそれで世界は変わらなくとも、その日を夢見て進んだ距離は嘘ではないので私も高くて美味い飯を食べるため次の職にありつきたいと思う。

AM2:30

 1分強の短い曲だが、眠れない深夜の鬱屈とした脳内をこれでもかというほどに表現している。電気を消した部屋で布団のなかに潜って過ごす長い夜が、じつはものの数時間でしかないことを曲の短さとその中身で表している。

シンドローム

 『馬鹿と煙』と同じく、4月にリリースされた配信シリーズより収録。シングル版はいきなりギターのメロディから始まるのだが、アルバム版はライブ音源と同じくハウリング音(であっている?有識者見解求む)から始まる。私はライブの際にこの音と一緒に照明が逆光になり、客席が「『シンドローム』が来るぞ!」という空気でいっぱいになる数秒間を心の底から愛している。あの数秒間の客席の空気をビニール袋に詰めて元気がないときに吸いたいと本気で思っているので、いつでもあの音が聴けるようになり気が狂いそうだ。この曲のその先については、この音がなった瞬間昂りすぎて記憶をなくすので申し訳ないが割愛する。

モーニンググローリー

 私の大好きなアニメ『交響詩篇エウレカセブン』の中盤の名場面である26話のサブタイトルと同じ曲名のため、アルバムの詳細が発表され一際目を引いた一曲だ。小清水美里ちゃんの中国語のカウントから入るキャッチーでへんてこな歌詞は、アイドルという存在の長所を引き出している。そんな歌詞だからこそ光るハンサムケンヤ節こそが『きのホ。』の良さであり、このアルバムの締めに相応しい。

おはようから始めよう
まだ眠いなんて言わせない
私が起きた世界

『モーニンググローリー』より

 身勝手に相手を振り回しながらもチャーミングな歌詞は、まるで妄想に出てくる女の子のようで、まさにアイドルソングといった印象を受ける。掛け声のように入る各国の挨拶も可愛らしく、ポップな存在である彼女たちにピッタリだ。

総括

 おはようからおやすみまでではなく、おやすみからおはようまでを歌うような構成で曲が並んでいて、暗い夜に募る後ろ向きな感情や皆が寝静まった時間の高揚感を音楽性の高さで見事に表現している。「『きのホ。』は今が一番最高」とメンバーも運営もオタクも合言葉のように唱えるが、本当にこの言葉の通りで尖りきった音楽に負けない存在感を放つ今の『きのホ。』だからこそ成り立つ最高のアルバムだ。彼女たちが到達するさらなる高みを、一介のオタクとして今後も楽しみにしたい。


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