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下流志向

『下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち』 内田樹 (2009年07月)講談社

なぜ、子どもたちが学びに意欲的でなくなったのか、若者たちが働くことに悲観的であるのか、その背景と要因に迫ったのが本書。

以下、本書の目次であるが衝撃的だったのは、第2章で説かれていた「学力低下は努力の成果」だ。

第一章 学びからの逃走
 新しいタイプの日本人の出現/勉強を嫌悪する日本の子ども/学力低下は自覚されない/「矛盾」と書けない大学生/わからないことがあっても気にならない/世界そのものが穴だらけ/オレ様化する子どもたち/想定外の問い/家庭内労働の消滅/教育サービスの買い手/教育の逆説/不快という貨幣/生徒たちの意思表示/不快貨幣の起源/クレーマーの増加/学びと時間/母語の習得/変化に抗う子どもたち/「自分探し」イデオロギー/未来を売り払う子どもたち

第二章 リスク社会の弱者たち
 パイプラインの亀裂/階層ごとにリスクの濃淡がある/リスクヘッジとは何のことか?/三方一両損という調停術/リスクヘッジを忘れた日本人/代替プランを用意しない/自己決定・自己責任論/貧しさの知恵/構造的弱者が生まれつつある/自己決定する弱者たち/勉強しなくても自信たっぷり/学力低下は「努力の成果」

第三章 労働からの逃走
 自己決定の詐術/不条理に気づかない/日本型ニート/青い鳥症候群/転職を繰り返す思考パターン/「賃金が安い」と感じる理由/労働はオーバーアチーブ/交換と贈与/IT長者を支持する理由/実学志向/時間と学び/「学び方」を学ぶ/工場としての学校

第四章 質疑応答
 アメリカン・モデルの終焉/子どもの成長を待てない親/育児と音楽/高速化する社会活動/師弟関係の条件/教育者に必要な条件/無限の尊敬/クレーマー化する親/文化資本と階層化/家族と親密圏/新しい親密圏/ニートの未来/ニート対策は家庭で/余計なコミュニケーションが人を育てる/付和雷同体質/相手の話を聴かない人々/時間性の回復策/身体性の教育

努力と成果の相関の信じられなくなった社会において、学びから逃走することにより、自己有能や達成感を得ようとする子供たちが増加傾向にあるという。
これは教育のやり方を変えるだけでは解決できず、社会の在り方を変えていかなければいけない段階にきていることを意味していると感じた。

社会の不確実性が増し、努力と成果の相関関係が見えにくくなったリスク社会では、リスクの多い社会層に属する人々は「努力は報われない」ということを骨身にしみて味わい、ますます努力することの動機付けを失ってゆくという。

一方、比較的リスクの少ない社会層に属する人々は日々の実践を通じ、「努力は報われる」経験を経て、努力することの動機付けが強化され、ますますリスクを回避できるようになり、社会的安定を高めてゆく。

社会の二極化、階層化の背景には学習格差、努力格差が厳然としてあることに愕然とした。

さて、この問題にたいして、どう立ち向かってゆくのか。

本書にその解決法は提示されていなかったが、この問題に立ち向かわない限り、社会の分断、階層化は避けて通れないだろう。



人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。