忘牛存人
十牛図第七図「忘牛存人」
牛、忘るられ、人、存するのみ。
中島敦「名人伝」において、主人公の弓の名手、紀昌が辿り着いた、弓の存在すらも忘れてしまうという境地がここであった。
求めて止まなかった対象をも忘れてしまうとはどのような境地であるのか想像もつかないが、牛や弓と自己が分け隔つことが出来ない程までに一体化してしまったと解釈できるかもしれない。
また、超一流のアスリートやアーティストの証言に最高のパフォーマンスを実現させた瞬間の記憶がないとよく耳にする。
完璧な瞬間はゼロに向かうと誰かが言っていたか、真理のひとつといえるであろう。
行を積み業を乗り越え法を成し 阿呆と為って只在るのみか
人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。