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スキルリセットがつらい全ての指揮官へ捧げる「アニスとの面談」

NIKKEを始めたての頃はカウンターズとエヌを中心に部隊を組み、12章あたりまで進めた。ゲームを分かっていなかったからリセマラもやっていなかったのもあるが、時間がかかるからリセマラを知った後でもやらなかったと思う。
操作はラピでしていたが、隣にアニスとエヌがいる安心感は大きかった。特にアニスは高い攻撃力・体力・支援力でほとんど私の部隊の「攻守の要」だったから頼り切っていた。初めは本当に何も分かっていなかったからスキルカットシーンもそのまま見ていた。だから余計にみんなの活躍が目に焼き付いた。
しかしだんだん私もゲームというものが分かってきたし、当たり前だがメインが進めば難易度は上がる。「最後までカウンターズでいってやる!」と調子づいていたが、何よりSSRがだいぶ集まってきたので部隊メンバーを入れ替えることを余儀なくされた。
そして全ての指揮官を絶望に叩き込む160の壁に到達し、私は乗り越えるのに半年かかった。その頃にはカウンターズとSRは部隊から完全に消えた。本当は全てのNIKKEを平等に育成したかったがそんなことは不可能だった。
私はシンクロデバイスにSRも入れていたのだが、160の壁を越えた後で当然それらは全員外すことになった。企業装備は全てSSRへ。それでも育成が進まないので泣く泣くSRから装備を外しSSR装備のエサに回した。そしてレベルリセットやスキルリセットも容赦なく行った。SSRでさえ持ってはいるが面談もしせず装備を付けたことすらないNIKKEが増えてきた。


【注意】ここからは私の妄想です
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アニスは私が指揮官として着任した直後から部隊を支えてくれた最大の功労者の一人でもあり、私は彼女のスキルリセットもレベルリセットもしたくなかった。しかしついに彼女までその対象となった時、アニスにそれを伝えるために長めの面談をした。アニスは黙って私の話を聞いていた。怒るわけでも悲しむわけでもなく彼女は淡々とした態度でソファに座っていた。
「一旦リセットをするがそれはアニスが必要なくなったわけじゃない。私も軍人だからときには非情な決断をしなくてはならない。アニスには特に世話になったから、メンテナンスのために一度後方に下がって休息する期間と考えてくれないか。君が必要なのは変わらないから、いつか必ずもう一度アップデートすると誓う。私を信じて待っていてくれないか」うつむき加減に話を聞いていたアニスに私はこう伝えた。
「指揮官様、そーゆーとこずるい」
アニスは少し怒ったような顔でこっちを見た。私は思わず視線を下に落とし小さく「すまない」と言った。
「冗談よ」
今度はニッと笑顔を浮かべ、テーブルの上にあった炭酸水の缶に口を付けて一口飲んだ。短めの金髪がふわりと揺れる。
「指揮官様からそんな大人の判断を聞かされちゃ反論の余地がない」
冷酷な声で彼女は言い放った。私は冷たいナイフで背中をなぞられた気がした。アニスは金髪の毛先を右手の人差し指でくるくるともてあそぶ。私は口をつぐんでしまった。言葉がなかった。
「それにさ、私は人間じゃないし、兵器だし」
先ほど背中に当てられたナイフが大きな口径の銃に代わった気がした。それはアニスのグレネードランチャーだったかもしれない。私はアニスの顔を見ることが出来なかった。
「ぷっ」
数秒間の恐るべき沈黙が流れた後、アニスが噴き出した。そしてけたたましい爆笑に代わりソファの上を転げまわった。私はポカンとそれを見つめた。ひとしきり彼女の馬鹿笑いが指揮官室に充満した後で、落ち着きを取り戻したアニスは涙をぬぐいながら私に向き直った。
「指揮官様ってホント指揮官様よね」
私は意味が分からないといった表情で彼女の顔を見つめた。金色の瞳がまっすぐこっちを見ている。
「私が指揮官様にそんな意地悪なこと本気で言うわけないじゃん!初めて会った日からもう1年半も経つのにそういうことはまだ分からないんだよね。どこまでお人好しなんだろ」
私は急に恥ずかしくなった。そして同時に先ほど背中に突き付けられた銃器の感覚がなくなっていることに気づいた。アニスはまたけらけらと笑うと私の目をじっと見た。
「指揮官様じゃない他の人間の指揮官様なら何も言わずにリセットしてるでしょ。ある日急にリペアセンターに送られて待機しろで終わりよ。そういう指揮官もいるってこのあいだ派遣作戦に行った時にルピーに聞いたもん。ルピーがそういう目に遭ったわけじゃないんだけど勝手に怒ってた」
そんなこと考えもしなかった。アニスにどうやって納得してもらうか、そればかり考えていた。
「とにかくさ」
アニスは炭酸水の残りを一気に飲み干すとテーブルに少し強めに空き缶を置いた。カン!と乾いた音がした。
「私は指揮官様の指示なら喜んで従うし納得もしてる。こんなに誠実に接してくれる人の言うことに逆らえない。」
アニスはいきなり立ち上がると私に敬礼して大声で言い放った。
「NIKKE登録番号Tet-Sp.ANNIS2599アニス軍曹はKMA中尉の命令を受領しリセットプロセスに入ります」
私も立ち上がり無言で返礼する。数秒間私とアニスは間にテーブルを挟んで向かい合ったまま敬礼していた。
沈黙を破ったのはアニスだった。
「じゃあ、行ってくる。でもカウンターズが解散するわけじゃないんでしょ?記憶消去でもないしまたここにしょっちゅう来るつもりだしシャワー室も使うしそれに」
少し間を置いてアニスが言った
「私の指揮官様は指揮官様しかいない」
私は再び何も言えなくなった。あれこれ言葉を探し回った挙句にアニスへの返答として選ばれた言葉は何とも陳腐なものだった。
「いつでも来てくれ」
私が言うとアニスはまた笑顔になり、それからすたすたと指揮官室を出て行った。ごくごく小さな声で「また好きになっちゃうじゃない」と呟くのが聞こえたが聞こえないふりをした。

 アニスが指揮官室から出て行ったあとで私は携帯電話を取り出し通話ボタンを押した。
しばらく呼び出し音が続いた後、応答があった。
「…はい、もしもし」
「ラピか?すまないが今日中に面談をしたい。いつもより少し長くなるかもしれない。あまり愉快じゃない話を君に伝えなくてはならない」
「ではこの電話で要件をお伝えになっては?私は指揮官の指示には全面的に従います」
「そんなことはできない」
「しかし…」
「頼む。君に言い訳をさせてくれ。直接会って君に苦し言い訳をして少しでも楽になりたいんだ」
「…そんなに正直におっしゃるのなら直接聞かないわけにはいきませんね」
「ありがとう。それでは都合のいい時間に指揮官室へ来てくれ。今日はこの後ずっとここにいる」
「了解致しました。1時間でいま取り掛かっている書類を提出したら参ります」
「待ってる」
私は電話を切った。次はラピの番だった。
(つづく)


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